眠り姫は王子に愛される





「こよい」



大好きだから幸せでいてほしい、邪魔にはなりたくない。それは本当。

でも、ずっと一緒に居てほしいと思うのも本当。


毎日に色がなくなってしまうくらい悲しくて、考えるだけで涙が出て来る。

それでも、どこかであの素敵な笑顔を見せて活躍してくれたら、きっと離れることにも意味があったと後悔しない。



「…眠り姫にはキスするよ」



夢の中でぼんやりと聞こえる声は優しくて甘くて、少し悪戯。

そっと唇に触れた感覚も夢?


そっと、虚ろ気に開いた視界の先には、ずっと夢の中にいた大好きな人がいて。

目が覚めたことに少し驚いた顔をしながら、真っ先に抱きしめてくれた。


ふわり、感じる温もりと柔らかい香りは久しぶりで、最初は恥ずかしさばかりが勝っていたのにいつの間にか安心に落ちついたそれ。


離れている間は寂しくて、悲しくて、考えるだけで涙が止まらなかった。

今は、会えているのに、触れられているのに、声を聞けるのに、愛しさで涙が止まらない。

大好きと伝えたくて、ありがとうも、ごめんなさいも、たくさん言いたい。

でも、何も出ていかないまま全てが涙に流れていく。


何もしゃべれない私をそれでも大切にぎゅっと抱きしめてくれる。

落ち着く体温は、私が求めていたものだ。優しい夢から覚めてしまったのに、変わらず優しい物語が続いていて、心が安らいでいくのを感じた。

暫く訳も分からず止まらない涙を流し続けて、志緒は背中をとんとんと擦ってくれていた。




< 148 / 159 >

この作品をシェア

pagetop