眠り姫は王子に愛される





静かに穏やかに聞いてくれていた彼は、最後の最後だけは言わせてくれなかった。


眉を顰めて口をむ、と曲げて、笑顔から一変して不機嫌に変わる表情は豊かだけれど不穏。



「湖宵、また離れていくつもり?これは最後の挨拶だと思ってる?」

「…うん、大好きでも一緒に居られないことってあるんだね」

「どうして一緒に居られないの?」

「私が志緒の傍に居ると足を引っ張っちゃうよ。志緒の助けになれないし、逆に仕事の時間を削って私に構わないといけないし、誘拐だってされるし、余計な荷物が増えてる。」



そう、一緒に居たいという気持ちだけで一緒に居られるなら、迷わず優先する。


例えば、私の生まれがお嬢様でこの暮らしに慣れていたとしたら。
例えば、志緒が一般人で若くして責任を負う立場にない普通の高校生だったら。

放課後は寄り道をしながら帰って、休日も一緒にお出かけして、青春と呼ばれる思い出をたくさん重ねられたのかな。


たらればに縋ってもむなしいだけで、志緒の好きな気持ちが大きくなってしまう。出来るだけ悲観的な声にならないように淡々と述べていたのに。



「そもそも、助けになれないって何?」

「ふぇ?」



志緒はあっけらかんと根底を覆す。




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