眠り姫は王子に愛される
私がいつまでも慣れずに初心な反応を示すので、志緒はこうしてどこに居てもからかってくる。
赤く染まった頬を隠すために、さらに距離を縮めることが間違いであることを知ってからは、必死に押し返すようになった。けれど、全然力が入らない上に、志緒が退く気にならないのでびくともしない。
そんな茶番を毎日繰り返して、チャイムが鳴るまで過ごす。
「可愛いから誰にも見せたくないけれど、可愛いから見せびらかしたいよね」
「じゃあモデルやろうよ」
「それは却下」
「久住くんも一緒にやってくれたら売り上げ伸びそうだよ?」
「冗談言うのもいい加減にしなよ」
「本気だったら正式に久住家にお願い入れてもいいの?」
「無理」
この2人はにこにこと綺麗な笑顔を保ったままでも、鋭い発言が飛び出す。私を含めて、どんな人にも優しいのに、2人が視線を交わすとバチバチと火花を散らした応酬が続く。
正直見守るのが怖い。それに…、
「…、ん?どうしたの湖宵?」
ちょこん、と袖を控えめに掴んで志緒を見上げる。2人の身長からすれば、私なんて視界にも入らなさそうなのに、小さな仕草でも志緒は見逃さないでいてくれる。
あっさりと争いを中断してこちらを振り向いてくれる志緒は王子様のようにキラキラの優しい笑顔。その切り替わりにむっ、と頬を膨らませる。