眠り姫は王子に愛される
「ごめんね湖宵、今日は別件があるから先に帰ってて」
「う、うん、分かった」
「寄り道しないでね?」
頬にキスをしてから私の返事を聞く間もなく、千賀さんに私の鞄を預けた志緒は、急いで車に乗り込み颯爽と何処かへ行ってしまった。そこへゆったりと千賀さんが近づいてくる。
「おかえりなさいませ、湖宵様」
「今日はどうして志緒と別々なの?」
「志緒様は会社でのお仕事がございますので」
「会社?」
「お父様の会社で経営の勉強をなされているのです」
「ほぇ…」
そっか、志緒はあの大手会社の次期後継者候補だった。
常に私の傍に居て、全く抜かりがない完璧な彼は、実は私の何倍も忙しいらしい。その割には、私の隣から離れない気がするけれど。もしかして私がお昼寝している間にも勉強や仕事をしているのかな。時間を上手く使い、合間を縫って。
久住家の話を聞いた時と同様、志緒の存在が急に遠く感じた。
せめて、帰ったら私も今日寝ていた分、勉強しよう…。