眠り姫は王子に愛される
「湖宵大丈夫?」
窺うように心配そうな面持ちで屈んだ志緒が視界いっぱいに広がる。
未だに言葉にできない気持ちを抱えていることはきっとバレているだろう。
きゅ、と志緒の袖を掴んで「もう帰りたい」とだけ。
曖昧に笑った志緒は「ごめんね」と何故か謝って、すぐ傍に来ていた車に乗せてくれた。
心に巣食ったモヤモヤは志緒の謝罪でさらに広がる。
車内でチーズミルクティを一口。
美味しいと感動していたのに、今は味もよく分からない。
気付けば袖口を掴んでいたはずの手はいつもと変わらず志緒と繋がれている。
そして、気付けば私は頬を膨らませている。
モヤモヤしながらもその感情は怒りらしい。自分の表情でそれだけを理解した。
「眠ってていいよ」
「ん」
快適な車内で膝枕までしてくれる中で目を瞑るのに、行き場のない感情のせいで結局眠れなかった。
家に着いて志緒と共に部屋に入る。
ずっと黙り込んだままの私を見て、気遣うように優しく声を掛けてくれるのに、心がこれ以上ないくらいに訳の分からない感情に支配されているせいで優しさを受け入れることすらできない。
そして最後には、
「ごめんね、湖宵」
と困ったように謝ってしまうから、もっと複雑になって抱えきれない。