眠り姫は王子に愛される





「……ごめんなさい」

「何が?」

「八つ当たりしたし、突然泣いちゃうし」

「どんな湖宵でも可愛いから謝ることなんてないよ」

「志緒は甘やかしすぎ」

「湖宵が可愛いせいかな」

「…もう、」



何を言っても相変わらず「可愛い」と返って来るので、口をへの字に曲げてみたけれど、やっぱり同じ言葉で微笑まれただけだった。



「でも、すぐに兄妹って断定するのやめてほしいよね」

「……うん」

「笑顔で乗り切るのギリギリだった」

「志緒の黒さ見えてたよ」

「え、嘘」

「ふふ」

「やっと笑った」



安心したように一言。


微笑んだ瞬間に残っていた雫が瞳から一筋。
それを逃さずにちゃんと掬い取ってずっと変わらず優しく。


上手く言葉にできなかったモヤモヤはきっと涙と一緒に志緒が吸い取ってくれたのだ。


私たちは兄妹じゃない。


だからと言って恋人でもない。


友達と呼ぶには距離が近すぎると思う。


婚約者と言い切ってしまうのは、ただ決められた関係な気がするから使いたくない。




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