眠り姫は王子に愛される
「……あれ?」
予習も残り一教科となったところで、鞄から目当ての教科書を探す。
「いかがなさいましたか?」
「化学の教科書を学校に忘れたみたい」
しかし、珍しく眠らなかった結果、自分で帰る準備もしたので教科書を入れ忘れたようだ。
志緒が準備をするときは全く忘れ物はないのに、私はたった1回でさえしっかりしない。
そういえば、転校前も忘れ物は常習犯だったなあ。
「では取りに参りましょう」
「え、でも…」
「志緒様のお迎えも兼ねて」
予習を諦めようと少し残念に思っていたのに、御堂さんは優しく私の意志を尊重してくれる。
そして、すぐに千賀さんに事情を説明してくれた。
千賀さんも快く笑顔で引き受けてくれて学校へ戻ることに。
「すみません」と謝ると、「志緒様を迎えに行く必要があるので変わらないですよ」と優しい。
今日も優しく穏やかな久住家のお手伝いさんに送り出され、夕方の暗くなり始めた街を走る。
あっという間に暮れた空は、学校に着く頃には月と星が輝いていた。
そして、中に入ってから気付くのだ。
夜と言って差し支えない学校を1人で歩くことの怖さに。
お金持ちばかりが集うこの学校。
敷地面積はドーム何個分だとかよくテレビで耳にするフレーズで表され、想像がつかなくて忘れてしまうほどの規模の大きさだ。
勿論教室までの道のりも長い。