眠り姫は王子に愛される





しかし、心を落ち着かせたかったのに、深呼吸の途中でカタン、教卓から音が鳴って恐る恐る覗き込む。

何故かチョークが割れて落ちていたため、全く落ち着けないまま教室を飛び出した。


何で、どうして…!扉は冷たくなかったじゃん!


いやいや、きっと私が勢いよく扉を開いたから風か振動で落ちたんだ、うん、怖くない、大丈夫、落ちるまでの時差なんて考えちゃダメ、何もない。



——6つ目、音楽室の方向からソプラノの歌声が聞こえるんだって



ダッシュで廊下を逆戻りする。


きっと廊下を走るのも仮にも名門の学校に通う身として相応しくない。何度でも繰り返すけれど怖いんです!

七不思議を馬鹿にして、もし何か良からぬものに捕まっても逃げられる自信がないので、今のうちに全力で逃げさせてください!


と、誰も居ない夜の校舎で言い訳を心の中で述べることで、百合ちゃんの綺麗で艶のある声を、しかし毒が混ざった話を思い出さないようにする。


教室のある校舎から音楽室までは距離があるので、普通ならば鮮明に歌声が聞こえるなんてありえない。


好奇心で踏み入ったせいで、不思議と銘打った怖い思いをした人が勝手に作り上げたお話。それが七不思議だとすれば。


どうして七不思議なんて作ったんだろう、語り継がれているんだろう。


私が怖い思いをする羽目になってるんですが…!


めちゃくちゃだと知りながら、パニックで見知らぬ誰かに怒りでもしないと足が止まってしまいそうだ。




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