眠り姫は王子に愛される





ちゃんと体温があるように感じたのは、人間だと信じたいからだろうか。



「湖宵?どうしたの?」



その声が、ひたすら甘くて優しく聞こえるのは私が夢を見ているのだろうか。



「湖宵、泣いてる?」



恐る恐る顔を上げようとするのは、その先に居る人物に心当たりがあるからだろうか。


そっ、とぐしゃぐしゃな顔のまま顔を上げる。


教科書もローファーも気付かないうちに手から滑り落ちていて、床に寂しげに転がっていた。

そんな些細なことは視界に入れられるのに、目の前の現実を見ることには戸惑う。



「大丈夫?怖かった?」



でも、私が視界に入れるよりも先に、無理矢理視界に飛び込んできたので、その体温も、声も、顔も、確認した途端に安心材料に変わる。


ぺたり、冷たい床に張り付いて動かない脚はそのままに、泣き出してしまうほどの怖い思いを消し去りたくて、忘れ去りたくて、目の前の人物——志緒に、腕を伸ばした。




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