眠り姫は王子に愛される
「うぅっ…ばかぁ」
「湖宵はホラー苦手だねえ」
腕を首に巻き付けて志緒との距離をゼロにする。志緒も迷わず背中を優しくさすって宥めてくれる。
いつも一緒に居る人の声に気付けない私も馬鹿だけれど、七不思議の話に合わせるように近づいて来た志緒も馬鹿だ。
「言ったこと、あった…?」
「んー、今朝、白波瀬さんの話で怖がってたし」
笑顔でごまかされたような気がするけれど、志緒の優しさに甘えることで怖さから逃れたい私は深く追求することはしなかった。
未だ流れ続ける涙を止めるべく、思い切り志緒の香りと体温に包まれて身の安全を確保する。
志緒の香りはとても優しくて、きっと今の私も彼と同じ柔軟剤を使っているけれど、何故か同じ香りではない気がする。
爽やかながら落ち着く、さっき飲んだカモミールティのような安心感。
無理矢理ポジティブに思考しようとして、処理しきれなくなった頭は優しさに絆されて徐々に平静に戻っていく。