眠り姫は王子に愛される
「おかえりなさいませ」
気付けば、千賀さんの声が聞こえていて、行きはあんなに長く感じた道のりが、一瞬だったことに驚く。
そして、校舎を出てからも志緒に抱き上げられたままなことを知る。
「志緒、!降ろして!」
ただでさえ人1人を持ち上げるのは重いのに、こんなに長い距離を歩かせてしまっている。
シャツの袖を掴んで引っ張るのに、笑顔で簡単にかわされた。
それどころか、そのままの状態で千賀さんと話し始めるから羞恥心まで募る。
「千賀、お前ついて行きなよ」
「行ったらまた志緒様がお怒りになるかと」
「それより湖宵を怖がらせる方が罪だ」
罪って、重くないですか。
私に向けるよりも幾分も鋭くなった声は、明らかに叱責するもので、本来怒られるべき対象の私が落ち込んでしまう。
しかし、当の千賀さんは姿勢も表情も全く崩さず、志緒の棘は全く効いていない様子だった。
端的な注意はそこそこに、志緒と私は車に促されて、結局そのまま抱き上げられたまま座席に降ろされた。