眠り姫は王子に愛される
「……ごめんなさい」
「どうしたの?」
「だって、私が教科書を忘れちゃったから…」
自分が怒られたような気持ちでしゅん、と落ち込み、俯きながら志緒の袖に控えめに指先で触れる。
すると、怒ってない意思を示すように袖を掴んだ指先に志緒の指先が絡んだ。
無機質じゃない体温に安心感を覚える。
私よりも冷たい指先に優しく撫でられると、落ち込んだ心に入り込むようにすぐに馴染んだ。
「湖宵は何も悪くないよ」
「志緒だったら忘れ物なんてしないでしょ?」
「忘れ物はしなくても、落とし物は多いから」
「そうだっけ?」
思い返してみるけれど、誰から見ても完璧な志緒は、1番傍に居るはずの私の前でも変わらない。
当然落とし物なんてしていた記憶もない。
首を傾げて志緒を見ると、自分を責めるように寂しく笑った気がした。
「でも湖宵のことは絶対離さないからね」
「私は物じゃないよ」
むっとしながら、肩に頭を預けると、くすくす笑いながら頭の上に頬が重なる。
ふわり、動いた瞬間に仄かに香る志緒の優しさに、もう怖くないのに涙が零れそうになって困る。
安心がこんなにありがたいものだとは思わず、久々の微睡みにしがみつくようにそっと微笑んで。