眠り姫は王子に愛される
大きなベッドでは2人が入っても十分なスペースで、くっついて眠る必要はないのに、いつも志緒は腕枕をして半分抱きしめた状態で眠ろうとする。
今日ばかりは、その腕枕が心地よかった。恥ずかしさよりも安心感が大きくて、包まれているこの空間は悪夢を払いのけて守ってくれている気がした。
「湖宵、今日は大人しいね。まだ怖い?」
「うん…怖い」
言いながら、自ら距離を近付けて胸元に頭を寄せる。
志緒は、怖がる私を安心させるように胸元に引き寄せて完全に抱き枕状態にした。背中を一定のリズムでトントン、とされると小さい頃を思い出す。
このリズムに揺られるように微睡んでいき、手放しに意識を委ねてしまいたくなる。
ゆるゆると眠気が少しずつ夢の中に誘っていく感覚は私が大好きなもの。
ふわふわの綿菓子みたいに甘くて、きらきらのメリーゴーランドのように楽しい夢が見られたらなあ。
淡い願いをそっと乗せて、志緒からの「おやすみ」という優しく甘い声に背中を押されて、幸せな時間に身を委ねた。
…はずだったのに。
「来ないで…っ、やだっ!」
夜の校舎、月も星も輝かない真っ暗な世界で、ひたすら知らない何かに追われる夢で目を覚ました。
まさか、本当に悪夢になるなんて…。
志緒と一緒に眠ったら、幸せな夢を見られると思っていたのに。
冷や汗が流れて、浅く息をして、さっきの悪夢が目の裏に映って離れない。
そんな自分に1つの違和感。
「……志緒?」
それは、隣で腕枕をしてくれていたはずの志緒が居ないことだった。