授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました

満員電車の中で人知れず痴漢に遭っている女性を見つけ、見て見ぬ振りができない性分だった私は臆せずに痴漢を電車から引きずり下ろし、警察に突き出したことがあった。その女性が今、私の目の前で聖母の微笑みを浮かべている聖子だ。まだ高校生のあどけなさが残っていて、毎回私に講義のノートを見せてとせがんでいた日が懐かしい。

「え、ちょっと菜穂、なに泣いてるの？」

「え？　あ、ごめん」

懐かしい思い出に感慨深くなってしまい、心配げに覗き込む聖子に笑ってみせると滲んだ目元をそっと人差し指で拭う。

「あの聖子が立派なお母さんになったんだなって思ったら……なんだか泣けてきちゃって」

「菜穂……。あー！　やだやだ！　こっちまでウルッときちゃったじゃない。あ、そうだ！　翔太のこと抱っこしてみる？」

「え？」

光弘さんの腕から聖子の腕へ抱っこされる翔太君がうっすらと目を開けた。

「わ、私は、いいよ、なんだか壊れちゃいそうで……」

「大丈夫よ、ほら」