授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
紗希さんが坂田法律事務所の弁護士だと聞いたとき、なぜか黒川さんと彼女の姿が浮かんだ。心のどこかでまたは頭の片隅で、過去に二人がそんな親密な関係だったら……と一瞬考えなかったと言えば嘘になる。

「やだなぁもう、お母さんってばお喋りだから、てっきりそのこと聞いてるもんだとばっかり思ってたよ」

乾いた笑いを浮かべ、気まずさを紛らわせるように聖子は勢いよくストローを吸ってオレンジジュースを飲み干した。

「でも、どうして付き合ってるなんて噂が? 誰がそんなことを?」

噂ということは黒川さんまたは紗希さん本人の口から“付き合ってる”とはっきり聞いたわけじゃない、ということだ。詰め寄るように聖子に尋ねると彼女は言いにくそうにもごもごと口元を動かして呟いた。

「それがね、一年くらい前だったかな……うちの店によく来る常連客の子が言ってたんだけど、その子がバイトしてる居酒屋でたまたま二人を見たんだって、会計終わってイチャイチャ腕組んで店を出てったらしいよ」

「そ、そうなんだ」

たったそれだけの情報で二人が付き合っていたと思うのはいささか早計な気もする。けれど、付き合っていたからこそ、そんなふうに親密な関係に見えたのだと思うと小さく胸がざわついた。
< 128 / 230 >

この作品をシェア

pagetop