授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
結婚もしたこともないから離婚の経験もないけれど、かなりの体力を消費したはずだ。それを乗り越えての自由は計り知れない解放感でいっぱいだろう。

「幸せになってくれるといいですね……」

「君、さっきから元気がないな。なにかあっただろ?」

「え?」

首を捻ると同時に黒川さんが後ろから私を覗き込んでくる。

「そんなことは……」

咄嗟に正面を向いて顔を背け、逃げるように水面から顔を出している立てた両ひざに視線を移した。

「仕事柄、相手の表情を見れば嘘をついているかどうかなんて大抵見分けがつく。君は、俺になにか言えないようなことを黙っているな?」

潜めた囁きの中に、私の真意を探ろうとしている意図が窺えて狼狽える。こんなとき、背を向けて後ろから抱き込まれる格好でよかったなんて思ってしまう。

――紗季さんと付き合ってたんですか?

聖子からその話を聞いてからずっと胸の中で燻っていた疑問。黒川さんは紗季さんが帰国してきたことを知っているはずなのに、私が家に帰ってから彼女の話は出ていない。
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