授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
元カノの存在を隠そうとしているんじゃないのか、どうして紗季さんのことを話してくれないのか、ふつふつと野暮なことを考えてならなかった。そんな気持ちのわずかな乱れも、黒川さんにかかればすぐに暴かれてしまうというのに。

「……今日、紗季さんに会ったんです。アメリカから昨日帰ってきて、お店に来ました」

「紗季、って……南雲紗季か? ああ、今日から仕事初めだって言ってたな。生憎、今日は外出時間が多くてすれ違いだったから、俺は会ってないが……あいつがどうかしたのか?」

「え? いえ、別になんでもないんですけど、ただ綺麗な人だったなーって」

そう言ったら、黒川さんはなんて答えるか試すような口ぶりになってしまった。チラッと視線だけ向けて見ると彼は愉快とも不愉快とも取れない表情をしていて、落ちてきた前髪をさっと掻きあげた。

「まぁ、世間一般的には美人な女性なんじゃないか?」

「え……」

「けど、これだけは言っておく。俺は菜穂しか見えてないから」

急に顎を捕られて上向かされ、声を漏らす間もなく唇に口づけをされる。いやらしく合わさる水音が浴室に響いて恥ずかしい。私は胸をどきつかせながら目を逸らそうとするも頬に手をあてがわれて固定されてしまう。

「んんっ……!」
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