授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
守秘義務があるからあまり彼の仕事のことであれこれ尋ねたことはないけれど、黒川さんが弁護士としてどんな仕事をしているのか興味があった。いっそ一度公判に傍聴に行ってみようかと思ったけれど、そんな中途半端な興味で行くのも気が引ける。

特に忙しくもないのに、なんだか疲れちゃったな……。

休憩時間に入り、私が一番にすることはスマホのメールチェックだ。

【今、現地に到着したところだ。こっちは東京と違って天気がいい】

【裁判所で依頼人と待ち合わせなんだが、道に迷って遅れそうだ】

黒川さんと付き合いだしてわかったことがある。彼は大雑把なところがあると思いきや、こういう連絡伝達に関してはものすごくマメだ。私もそのメールの返信をすると、いきなり着信が鳴って思わず手からスマホが転がり落ちそうになる。

「もしもし?」

『菜穂ちゃーん! 久しぶり! 元気してたかな?』

もしかして黒川さんから?なんて思ったけれど、着信の相手は……父からだった。

「お父さん、久しぶりだね。私は元気だよ」

『なかなか連絡できなくてごめんね。ほら、先日起こった新宿の殺人事件、あれお父さんが担当してるんだよ。それで今すんごく忙しくて……』

そういえば、数週間前に客同士の喧嘩が発端で相手を刺してしまった事件があった。父が言っている事件とはこのことだろう。
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