授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
「じゃあ、これとこれとこれもね。なんだか今夜はいつもより多いけど、ビニール袋に入れていく?」

「大丈夫です。ありがとうございます。お疲れ様でした」

閉店後。

いつもは一袋だけど、弥生さんから渡された今夜のお裾分けは二袋。それだけ今日の売り上げは芳しくなかったということだ。そう思うと少し残念だけど、事務所のみんなが喜んでくれると思うとそれはそれで嬉しい。

パンの入った紙袋を抱えて店を後にする。朝から降り続けていた雨も今は止んでいるようだ。

気温は高いのに雨が降ったせいか、外に出るとこもった湿気が肌にまとわりつく。

坂田法律事務所へ行くと、紗季さんがデスクに座ってなにやら書類のようなものを作成中だった。ミケ子さん以外、ほかに誰もいないようだ。

「あの、こんばんは。すみません、ベーカリーカマチの松下ですけどお裾分け持ってきました」

「わっ! 嬉しい! ちょうど小腹が空いてたのよ。ごめんね、今私しかいなくて……」

紗季さんは黒川さんほどではないけれど、たまに店に来て朝のパンとコーヒーをテイクアウトで買っていく。

はぁ、相変わらず綺麗な人だな……。

――あのふたり、付き合ってたって噂があるんだよ

ふと、聖子の言葉が頭に過る。手渡した紙袋の中身を見ながらニコニコと笑顔になる紗季さんをぼーっと見ていると、私の不躾な視線に気づいたのか目が合った。

「どうかした?」

「い、いいえ!」
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