授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
下手な愛想笑いを浮かべたのはいいけれど、なんとなく紗季さんと二人だけだと思うと気まずさが湧いてくる。

「コーヒー淹れてこよっと。これ、頂いていい?」

「あ、ど、どうぞ」

坂田先生や野木さんの分もあるんだけどな、まさか全部ひとりで食べる気じゃ……。

給湯室でコーヒーを淹れた紗季さんが戻ってくると、彼女は私の目の前にあるデスクに寄りかかってコーヒーを啜った。すぐにお暇しようと思っていたのに、なぜかじっと見つめられている気がして「じゃあ、失礼します」のひとことが言い出せなかった。

下げた視線の先には紗季さんのタイトスカートから伸びた細くて綺麗な長い足が見える。靴はピカピカに磨かれたブランド物のパンプスを履いていて、左手首には高価な腕時計がマグカップを傾ける度に煌めいた。それに比べて私は底の擦り切れた安物のスニーカー、もちろん腕時計なんかしてない。

きっと彼女は余裕のある生活を満喫しているんだろうな……弁護士だもの、当たり前か。

私の実家もそこそこ裕福なほうだけれど、それに甘えたくなくて自分なりの生活をしている。今は黒川さんと一緒に暮らしていて色々助かっているけれど、実際私にそんなブランドものを買ったりする余裕なんてない。

じわじわと惨めな気持ちになって居心地の悪さを感じていると、紗希さんが私を覗き込むように首を傾けた。

「ねぇ、ひとつ聞いていい? 慧介と婚約してるってほんと?」

「え?」
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