授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
「あ、あの……その後、真由さんは?」

「……真由は、死んだわ」

どれくらいの間、瞬きせずに目を見開いていただろう。ごくん、と喉を上下させ、しんしんと指先が冷たくなっていくのがわかる。

真由さんが、死んだ?

「う、嘘ですよね?」

「こんなこと嘘ついてどうするのよ?」

紗希さんがこの状況で嘘や冗談が言うような人じゃないことくらい雰囲気でわかる。けれど、頭の中では否定したい気持ちと呑み込めない現実でいっぱいになった。

「すみません……」

肩を落とすと紗希さんはふん、と鼻を鳴らしてコーヒーを啜った。

「……無罪になったって、一度傷つけられた人権が世間の信用を取り戻すまでどんなに大変で辛いか、あなたにわかる?」

「それは……」

そんなこと、考えたこともなかった。喉の奥で言葉にならない物が行ったり来たりして、結局私は、紗季さんに聞かれても黙るしかなかった。しんと静まり返る室内の窓ガラスに、再び降り出した雨の雫が打ちつけられる音が聞こえる。
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