授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
お父さん、まさか蒲池さんたちに横柄な態度なんか取ってないよね? あぁ、早く謝りに行かなきゃ……。

父は昔から偏屈で強引なところがあった。

子どもの頃、仲良くなった友達の母親がスナックで水商売をしているからといって、『金輪際、うちの娘と関わらないで欲しい』と勝手に電話したり、初めて自分で探したアルバイトも『仕事に給料が見合っていない』と強引に辞めさせられてしまった。それでも私は“いい子”でいたかったし、父の悲しむ顔が見たくなくて従っていたけれど、そろそろ我慢が爆発しそうだ。

あんパンの入った紙袋を親指で撫でつけると、黒川さんが満足げにあんパンを食べている姿が目に浮かぶ。

黒川さん……。

彼への想いが押し寄せ、息を吐いて力を抜いたら今にも涙が零れ落ちそうになる。

「わ、たし、……黒川さんのことが好きなの。彼はお祖父さんを騙した弁護士みたいに悪い人じゃない」

「では、なぜ昨夜お前は泣いていたんだ? ひとりで、しかもあんな雨降りに」

父には黒川さんが自分の娘を悲しませるような非道な男として映っているのだろう。でもそれは誤解だ。大きな間違いだ。

「あれは……あれは私が勝手に――」

「私に嘘は通用しないぞ」
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