授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
久しぶりの太陽の下は、心とは裏腹に清々しかった。肌に夏の空気を感じる。

板垣さんは元々無口なのか、特にこれといって会話のないまま車内に気まずい空気が流れる。

「板垣さん、はなみち商店街の空き巣事件のこと、父に話してないんですか?」

父と話をしたとき、一番初めに「なんて危ない真似をしたんだ!」とか「なぜ空き巣被害にあったことを言わないんだ?」と怒られると思っていたのに、父はそのことについてなにも触れてはこなかった。てっきり板垣さんが父に報告しているものと思っていたのに、父は私が空き巣犯と鉢合わせしたことを知らないような気がした。

「それに、あのときから私が検事の松下清次郎の娘だってことに気づいてましたよね?」

一番突かれたくなかった話題だったのか、板垣さんが苦笑いをして頬を人差し指でカリカリと掻いた。

「ええ、まぁ……。確認も兼ねてあなたの身元を犯人の目撃者として調べました。あなたはやっぱり松下検事のお嬢さんだった。でも、松下検事はあの事件に関与していなかったし、俺にも報告義務はありません。それに……」

綺麗にハンドルを回しながら交差点を右折する。彼の運転はすごく丁寧で、少しもはみ出ずに停止線できっちり止まる。まるで性格が出ているようだ。

なんとなく語尾を濁す板垣さんに視線を向ける。
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