授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
見あげると、テナントビルの三階に“坂田法律事務所”と書かれた袖看板を見つけた。ドキドキしながらエレベーターに乗って三階のボタンを押すと、大きく深呼吸した。

まずは改めて所長さんにもご挨拶して……あぁ、緊張で顔が引きつりそう。よしっ!

エレベーターのドアが開き、、気合いを入れて一歩踏み出したそのとき――。

「きゃっ!」

顔をあげると同時に勢いよく誰かとぶつかった。その弾みで手にしていた紙袋が床に落ちる。

「金田さん!」

そう呼び止めながら慌てた様子で事務所から出てきたのは黒川さんだった。よろけた身体をかろうじて壁で支えていた私を見て目を瞠る。ぶつかってきたのは髪の長い女性だった。気がつくと、彼女は何も言わずにそそくさとエレベーターに乗って行ってしまった。

「君はベーカリーカマチの……って、大丈夫だったか?」

「はい、平気です」

黒川さんは私に歩み寄り怪我がないか確認すると、床に落ちた紙袋を拾いあげた。

「ありがとうございます」

よかった! しっかり口を締めていたおかげでなんとか中身は無事だったみたい。

とはいえ、下に落ちた物をあげるなんて気が引ける。

「あの、弥生さんのおつかいでパンを持ってきたんですけど……すみません、落としてしまって」

「いいんだ、君のせいじゃない。あ、よかったら中に入って、所長もいるから」
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