授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
昨年の十月。

秋も深まり、金木犀の甘く爽やかな香りが漂いはじめたある日のことだった。

ライバル企業の買収発表後、間もなくして人事から会議室へ集まるように呼び出された。
会議室には私と同期の二年目の社員が招集されていて、企業買収にあたりアメリカの本社から日本での組織変更の説明でもあるのかと思っていた。けれどそこで配られたのは一枚の紙きれだった。

はっ!? な、なにこれ! 希望退職への応募用紙……って、う、嘘でしょ。

毎日終電まで残業して会社のために働いてきたのに……あり得ない!

二年目といったら、仕事にも慣れてきてそれぞれのやりがいにやる気が漲っている時期だ。それなのに、リストラだなんて……。

まさに青天の霹靂。

自分が募集対象者になっていたのもショックだった。後から先輩に聞いた話によるとアメリカの本社からとにかく低予算で社員の人数をできるだけ減らせとのお達しが来ていたようで、退職金の一番安い二年目がリストラのターゲットにされたらしい。

希望退職はあくまでも“希望”であって、従業員の意思が最優先。法的な拘束力があるものではないため、会社側から強制することはできない。希望退職に応じないという選択もあるにはあるけれど、組織変革や収益性の改善など、多くの課題を社員として解決し続けるという険しい道を歩み続けることになる。

私には、その道を歩んでいけるようなスキルも資格もなかった。リストラの対象者になったのにはそれなりに理由がある。現に秘書の資格やパソコンの資格などを持っていたり、能力の高い同期の社員は引き止めにあったようで、この会議室には呼ばれていなかった。

何も持ってない私がここで食い下がったって……。
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