授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
坂田法律事務所のある交差点は小さいけれど、車も人通りも多い。大通りに抜けるショートカットの道のようで、私は待ち合わせの場所で行き交う人たちを眺めていた。ドキドキする胸を押さえ、事務所の入っているビルを見あげる。

上階の窓にはちらほら明かりがついていて、まだ仕事をしている人たちがいるらしい。白々と明るい窓をぼんやり見上げていたらグレーのスプリングコートを羽織った黒川さんが出入口から出てきた。

「おまたせ、今夜は少し暖かいな」

今年は暖冬だったせいか、雪も降らなかった。道沿いの桜の木々の蕾も今にも開きそうだ。

「そうですね、寒いと出かけるのも億劫になっちゃいますけど、あの、今夜はお誘い頂いてありがとうございます」

丁寧にお礼を言うと、黒川さんはやんわりと目を細める。

「仕事終わりで疲れてるところ付き合ってもらうんだから、お礼を言うのは俺のほうだ。君って、仕事のときと髪型が変わると雰囲気が違うな」

「そ、そうですか?」

パッと頬に赤みが差した気がして慌てて俯く。

仕事中は髪が邪魔にならないようにお団子に結っているけれど、今は少し気合いをいれてコテで軽く髪を巻いてみた。化粧もバッチリ。OLのときは毎日こんな感じに小ぎれいにしていたけれど、最近はおざなりだった。

雰囲気が違うっていうのは、良いほうに捉えていいんだよね?
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