授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
「とりあえず何か飲み物を頼んで乾杯しよう」
女将さんにコートを預け、席に着くとメニューを開いた黒川さんに声をかけられた。
「ちらっと蒲池さんに聞いたよ、君は最近浅草に越してきたんだってな」
「ええ、そうなんです。実は仕事も昨日が初日でまだ余裕もなくて……せっかく下町に引っ越してきたのにまだ散策もできてないんです」
「ならなおさら乾杯しなきゃな。引っ越し祝いってことで、お酒はいけるくち?」
ここはお行儀よく「軽く嗜む程度なら……」と答えるべきかと迷ったけれど、メニューを見ているとどれも日本酒に合いそうな料理ばかりだ。父が大のお酒好きということもあってか、私もその血を引き継いでいる。ビールに日本酒、カクテルまで全部好きだ。
「へぇ、本日のおすすめは春の天ぷらコースか……とりあえずビールでいい?」
「はい」
ここのところ引っ越しやなんやらでろくに晩酌もしていなかった。ここでゆっくりお酒が飲めると思うと全身から解放された気分になる。
女将さんにもすすめられて、私たちは春の天ぷらコースを注文し、しばらくして来たビールで乾杯した。
「お仕事お疲れ様です」
「ああ、君もね。君はベーカリーカマチでアルバイトしてるって言ってたが、学生さん……じゃないよな?」
さすがに二十五にもなると学生には見えない。日中パン屋で仕事をしているからOLでもない。となると黒川さんの目には一体何者なのか、というふうに映るのだろう。
「実は……」
私はグラスを持つ手を膝に置き、リストラにあったあたりから今に至るまでのいきさつをぽつぽつと話し始めた――。
女将さんにコートを預け、席に着くとメニューを開いた黒川さんに声をかけられた。
「ちらっと蒲池さんに聞いたよ、君は最近浅草に越してきたんだってな」
「ええ、そうなんです。実は仕事も昨日が初日でまだ余裕もなくて……せっかく下町に引っ越してきたのにまだ散策もできてないんです」
「ならなおさら乾杯しなきゃな。引っ越し祝いってことで、お酒はいけるくち?」
ここはお行儀よく「軽く嗜む程度なら……」と答えるべきかと迷ったけれど、メニューを見ているとどれも日本酒に合いそうな料理ばかりだ。父が大のお酒好きということもあってか、私もその血を引き継いでいる。ビールに日本酒、カクテルまで全部好きだ。
「へぇ、本日のおすすめは春の天ぷらコースか……とりあえずビールでいい?」
「はい」
ここのところ引っ越しやなんやらでろくに晩酌もしていなかった。ここでゆっくりお酒が飲めると思うと全身から解放された気分になる。
女将さんにもすすめられて、私たちは春の天ぷらコースを注文し、しばらくして来たビールで乾杯した。
「お仕事お疲れ様です」
「ああ、君もね。君はベーカリーカマチでアルバイトしてるって言ってたが、学生さん……じゃないよな?」
さすがに二十五にもなると学生には見えない。日中パン屋で仕事をしているからOLでもない。となると黒川さんの目には一体何者なのか、というふうに映るのだろう。
「実は……」
私はグラスを持つ手を膝に置き、リストラにあったあたりから今に至るまでのいきさつをぽつぽつと話し始めた――。