授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
「……なるほど、まったく世知辛い世の中だな。アウリオンって言ったら外資系IT企業の大手じゃないか、リストラね……それは災難だったな」

黒川さんの慰めの言葉が胸に染みる。リストラのことは今でも思い出すだけでも涙が出そうになる。けど、それももう去年の話だ。いつまでもくよくよしていられない。

「じゃあ、君は今ベーカリーカマチの店舗二階に住んでいるのか?」

「ええ、マンションを出なくちゃならなくなって……住む場所まで提供してもらったんです」

いけない、せっかくのデートなのになんか湿っぽくなっちゃった。

そんなふうに思っていると、タイミングよく前菜が運ばれてきた。

先付けは酢漬けのキャベツに薄く切った人参。さっと揚げたグリーンアスパラなどの季節の野菜にクリームチーズが添えられた盛り合わせだ。

「わ、美味しそうですね」

目にも鮮やかな前菜に顔を輝かせ、「いただきます」とお箸を取る。

「ここの店、よく所長と来るんだ。女性を連れてきたのは今日が初めてだな」

初めて連れてきた女性が自分だと思うと、じわじわと優越感のような嬉しい気持ちがこみ上げてくる。照れた顔を誤魔化そうとひとくち野菜を口に運ぶと、歯触りがよく新鮮な味わいが口に広がった。

「んー、美味しい!」

「だろ?」

ふっくらとしたきす、ほくほく食感の一寸豆などの天ぷらなど次々と料理が運ばれてきて、黒川さんはゆっくり日本酒を交えながらお箸を進めていた。
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