授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
「聖子と友達だからっていうのもありますけど、ベーカリーカマチは私が学生時代からずっと通ってるお店で、なくなっちゃったらと思うと……だから、ありがとうございました」

「お礼を言われるほどでもないさ、店がつぶれたら君の好きなあんパンも食えなくなるしな。俺にとっても大損害だ」

口の端を押し上げて二ッと笑うと、私も自然と笑みがこぼれる。

知り合ったばかりなのに、どんどん黒川さんに引き込まれているのがわかる。これが聖子の言う“黒川症候群”なのだろうか。

「ありきたりな質問ですけど、黒川さんはどうして弁護士に?」

すると一瞬彼の表情に陰りが射した気がした。瞬きをしたらすぐに口元に笑みを浮かべていたけれど、その表情が刹那に心に残った。

「単純な理由だよ、正義の味方になりたかった。ただそれだけ」

聞くと黒川さんは現在三十三歳で、国立の大学在籍中に司法試験をパスし、その後アメリカのロースクールへ留学してから今の事務所に在席しているという。

なんか、すごくエリートコースまっしぐらって感じなんですけど……。

なにもかも成功して華々しい経歴を持つ彼と、三流の私大を卒業してこれといってなんの特技もなく、平凡に毎日を過ごしている私とではきっと住む世界が違う。雲泥の差を改めて思い知らされてしまった。そんな人に憧れを抱いてしまうのも無理もない。

「正義の味方、ですか……地上げの不動産会社も実はブラックな企業だったって言ってましたね」

「ああ、その不動産会社の裏側まで調べるのにずいぶん時間がかかってしまった。というのも、あの手この手で不正を隠していたからな」

当時のことを思い出してか、うっすらと表情を険しくしつつ日本酒のグラスを呷る。
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