授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
下町情緒残る浅草は夜も街並みが綺麗だ。

「あ、あれなんですか?」

「浅草寺の宝蔵門だ」

浅草には昔一度だけ来たことがあるだけで、主な観光スポットと言えば浅草寺くらいしか思い浮かばない。まるで観光客みたいに何もかもが目新しくてきょろきょろしてしまう。私が指をさした方向には宝蔵門がライトアップされて昼間とは違い、オレンジや赤の色彩がより色濃く夜景に浮かびあがっていた。

「すごく綺麗ですね」

「ああ、ライトアップされると建物が際立つな」

黒川さんの隣に並んで歩いていると、うっかり手が触れてしまうかしまわないかの距離に胸がドキドキする。夜のデートを楽しんでいるカップルもちらほら見受けられるし、今この瞬間だけ私たちは恋人同士だと錯覚してしまいそうになる。

「ここの公園だ」

宝蔵門を通り過ぎると、小さな公園にたどり着いた。その中央にまだ満開とまではいかないけれど、ぽつぽつと薄ピンクの花を咲かせた桜の木が静かに立っていた。周りには誰もいない。暖かな春の夜風がそよいで耳に髪の毛をかける。

「あのさ、君はベーカリーカマチでずっと仕事をするつもりなのか? それとも就職活動中?」

唐突に考えてもみなかった質問をされて向き直ると、視線が黒川さんの真顔とぶつかる。

「それは……」

聖子に誘われるがまま縋りつくようにお世話になっているけれど、このままでいいのか、と問われているようで言葉に詰まる。
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