授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
「もしもし」

『あ、菜穂ちゃん? お父さんだけど』

スマホからこぼれた父の声に聖子が息を潜めた。

『今、お昼休み中?』

「う、うん」

気を遣わせてしまった聖子に掌を立てて“ごめん”のジェスチャーをする。

『よかった。今夜は明日の公判の準備で忙しいから、菜穂ちゃんに今電話しておこうかなーって思って、仕事はどう? 無理してない?』

「大丈夫よ。無理もしてないし元気元気!」

『なら安心だ。あぁ、これから取り調べに行かなきゃならないんだ。もっと菜穂ちゃんと電話してたいけど――』

「うんうん! お父さんもお仕事頑張って! 私ももう行かなきゃ、じゃあね!」

まだなにか喋っている父をスルーして、私はそそくさと電話を切るアイコンをタップした。

「はぁぁ……」

身体にズシッと重たい何かがのしかかるような思いに、これ以上にないくらいの長い長いため息をつく。

「菜穂のお父さんも相変わらずね、仕事辞めたこととかここで働いてることも言ってないんでしょ?」

苦笑いする聖子に私は縋り付いて助けを求めたくなった。

「言えるわけないよ……仕事辞めたなんて言ったら絶対実家に連れ戻されるだろうし、ましてや黒川さんと付き合うことになったら……はぁぁ」

再び悄然としため息が出て、聖子から同情の意を向けられる。

「菜穂のお父さん、弁護士嫌いだもんね……」

「うん……彼氏を作るにしても弁護士だけは絶対に許さん! って言われてる」

私の父がなぜ弁護士を毛嫌いしているかというと……父は検察庁のトップ“検事総長”だからだ。
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