授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
仕事が終わり、いつものようにシャッターを閉めて店の前で聖子夫婦と別れるのが毎日のルーティンだ。まだここへ来て一週間も経っていないけれど、ずっと長くここで働いているみたいにすっかり環境には慣れた。

「菜穂、お疲れ。これから坂田先生の事務所にお裾分けのパン持っていくんでしょ? よろしく言っておいてね」

「うん、わかった」

カレーパンやピザパンなど夜食になりそうな惣菜パンが入った紙袋にはもちろん黒川さんの好きなあんパンも入っている。お裾分けを持って行くのを口実に、これから黒川さんに会いに行くつもりだった。

「あ、そうそう、今日お母さんから聞いたんだけどさ……」

聖子が私に振り返り、微妙に顔を曇らせる。

「どうしたの?」

「最近、この商店街で空き巣被害が横行してるらしくて、この間、横田さんの所もお金盗られちゃったんだって」

「え……」

「あそこおじいちゃんおばあちゃん夫婦しかいないでしょ? だからセキュリティも手薄だったみたい」

横田さんはベーカリーカマチから五軒先の和菓子屋だ。わりと近い距離にぞっと身震いするとともに、まるで高齢老夫婦で営んでいるのを知っていて侵入したような卑劣なやり口に怒りを覚えた。
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