授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
いつも戸締りをするのは光弘さんの役目だ。店を閉める時に必ず確認してるし、几帳面で慎重な光弘さんに限って忘れるなんてことはない……はず。

音を立てずにドアをそっと開け、抜き足差し足で中へ入る。そして目を閉じて耳を澄ませると、ガタガタと物音がして込み上げる嫌な予感にゴクッと喉を鳴らした。

誰かいる。

私の体内に流れる血は、多くの犯罪と向き合ってきた検事である父譲りの感性を引き継いでいる。人の道から外れたことが嫌いな性格もそうだけど、厄介なのは危険とわかっていても首を突っ込んでしまうことだった。今だって、本当は中に入るべきじゃないのはわかっている。

ベーカリーカマチの人だったら店の電気を点けるはずだ。勝手口から足音を立てずに厨房へ行き、身を隠しながらゆっくりと店内を覗いてみる。目を凝らさなくても視力がいいことが幸いして、レジスターの前に男性の人影が揺れているのを捉えた。

やっぱり、空き巣だ! 間違いない。

勝手口の鍵は古いタイプのシリンダー錠だった。空き巣のプロなら用具を使って簡単に開錠することができる。はなみち商店街に空き巣被害が横行している話を聖子から今日聞いたばかりだ。おそらく犯人は同じ人物。

簡単に侵入できると思って年寄りが経営する店ばかり狙っていたみたいだけど、絶対許せない!

店のシャッターが閉まっているため辺りは真っ暗だ。犯人はペンライトのようなもので手元を照らしている。どうやらレジスターを開けようとして手こずっているみたいだ。けれど、ドロアーの中はからっぽであることに気づいていない。現金は別の場所にある金庫の中だ。

次の瞬間、人影の角度が変わり、その横顔がチラリと照らされた。
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