授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
あの人!

思わず声をあげそうになってしまい慌てて口を塞ぐ。犯人は黒のキャップを被っていて茶色のブルゾンを着ていた。あの服装はどこかで……と記憶を巡らせると先日、店の外で怪しい動きをしていた不審人物の姿が脳裏に過った。

こういうところの直感も父と似ている。やっぱりあのときの勘はあながち間違いじゃなかった。
徐々に目が暗闇に慣れてくると、防犯カメラの位置を確認する。

確かカメラのアングルは店の正面出入口とイートインスペース、そして新しく清隆さんが取り付けたレジ回り付近だ。けれど、肝心のレジ回りのカメラの向きが若干ズレているのに気づく。それは店内と繋がっている厨房出入口の真上に設置されていて、視線を下ろしていくといつも清掃用具をしまうロッカーに入っているはずの柄の長いデッキブラシが目の前の床に転がっていた。

あれを使ってカメラの向きを変えたんだ。

犯人は空き巣に入る前にどこになにがあるか何度か下見に来るという。

パンを見ている振りしてあのとき店内の見立てをしてたのね。ますます許せない!

あれじゃ犯人の顔が映らないよ。なんとか決定的な証拠がないと……。

恐怖心よりも許せないという気持ちが勝り、私は床に這うようにしてデッキブラシを何とか手に取る。そしてあらぬ方向を向いている防犯カメラの位置をレジ回りに向けるためにそっと柄を伸ばした。

空き巣が犯行にかける時間は約五分だということを前に父が言っていたのを思い出す。早くしないと……と手に汗握りながら気持ちが焦りだす。

よし! やった! ッ!?
< 54 / 230 >

この作品をシェア

pagetop