授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
うまい具合にカメラの向きを直したそのとき、よろっと体勢を崩してしまった。慌てて手をついた拍子に何かの調理器具を倒してしまい、ガシャンと派手な音を立てる。

「誰だ!?」

野太い声が飛び、私は短く息を呑んで調理台の下へ咄嗟に身を隠した。

「クソッ!」

頑丈に鍵がかかっているレジのドロアーを諦め、犯人はもと来た勝手口から逃走しようと私の存在にも気づかず猛スピードで厨房を走り抜けた。

このままでは犯人に逃げられてしまう。そしてまた空き巣を繰り返すかもしれない。

ここで捕まえなきゃ、きっと後悔する。

「待って! 待ちなさい!」

粟立つ全身を奮い立たせ、じわじわと沸き起る恐怖心を振り切ると、私は大声を出して犯人が飛び出して行った勝手口へ追いかけた。すると、外へ出たのと同時に誰かが犯人の腕を取り、その勢いのまま犯人を一本背負いしている光景が目に飛び込んできた。

茶色いブルゾンを着た犯人の身体が空へ放り投げられ黒のキャップが飛ぶ。スローモーションのようにやけに犯人の身体がゆっくりと地面に叩きつけられるのを、私は口を開けて呆然と見ていることしかできなかった。

あれは……黒川さん!?

重々しい音とともに犯人が背中から倒れこむと、黒川さんはすぐさま犯人の身体をひっくり返して膝で腰を押さえつけた。

「この、おとなしくしろ!」

「うぐぅ!」
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