授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
犯人は黒川さんの下で低く呻き声をあげ、なんとか逃げようと激しくもがいている。

「早く! 警察を呼んでくれ!」

地面に伏した犯人を拘束しながら黒川さんが声を私に向かって張り上げた。私はハッと我に返ってポケットの中を漁るけれど、部屋にスマホを置いてきたのを思い出す。

あ~もう! なにやってるのよ私!

ハンドタオルを取りに行くだけだったし、まさかこんな事態になるなんて思ってなかった。私は今にももつれそうになる足でもう一度店の中へ転がり込むと、店の電話から通報した。

「黒川さん!」

再び彼の元へ戻ると、すでに犯人は数人の警察官に引き渡されていた。空き巣の被害の影響もあってちょうど商店街を巡回していたらしい。黒川さんはこういう場面に慣れているのかと思うくらいにてきぱきと被害時の状況を警察官に説明している。

「怪我はないか?」

足早に私のもとへやってきた黒川さんに「大丈夫です」と答えると、安堵のため息とともにギュッと私を抱きしめた。

「よかった。本当に……もし君になにかあったらと思うとゾッとする」

犯人は決して小柄というわけでもなく大の男だった。華麗に背負い投げをした直後だというのに黒川さんは息ひとつ乱していない。

「ありがとうございます。助けて頂いて……でも、どうして黒川さんがここに?」

私の質問にすっと身を少し離すと、凛々しい彼の表情が向けられる。
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