授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
「頼むから決して無茶なことはしないでくれ」

ソファに座る私の横に腰を下ろすと、汗が滲み始めていた私の手を握る。

「君は空き巣だとわかっていながら店の中へ入ったんだろ? どうしてそんなことをしたんだ?」

「そ、それは……」

おそらく、もし父がこのことを知ったらきっと黒川さんと同じことを言って咎めただろう。けれど、あれは私だって自分なりの思いがあっての行動だった。

「目の前に泥棒がいるのに見て見ぬ振りができなかったんです。ベーカリーカマチの人の悲しむ顔……見たくなかったから」

「それでもし君に何かあったら、それこそ蒲池さんたちを悲しませることになるだろ? 俺だってそうだ。犯罪者は犯罪行為を見られた場合、逆上して手を出してくることもあるんだぞ」

声を荒げはしないものの、叱責するような厳しい口調に胸がズキリと軋んだ。

確かに黒川さんの言う通りだ。今回の空き巣は慌てて逃げたけれど、一歩間違えれば口封じに襲われていたかもしれない。

「俺は仕事柄恨まれることも多い、だから武術を嗜んでいるが君は違うだろ」

「そ、そんなことどうしてわかるんですか? 私だって――」

黒川さんに至極全うな正論をぶつけられ、言われっぱなしでつい反抗的な態度に出てしまった。こういうところがまだまだ子どもなんだと頭ではわかっているのに、素直になれない自分が嫌になる。

「どうしてかって? 体つきを見ればわかるさ」
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