授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
「え? 浅草散策?」

黒川さんが私の家に訪ねてきたのは昼過ぎだった。私の行きたい所のリクエストが意外だったようで、彼は目を瞬かせている。

「はい。まずは自分の住んでいる所から知りたいなと……ずっと浅草に住んでるって言ってたので、ガイドしてもらえるといいなって」

桜の木がいっせいに芽吹くほど、今日の陽気はポカポカと暖かい。黒川さんはスーツではなく、清潔感のある白のカッターシャツにグレーの薄手のジャケットを羽織り、下は春らしくライトブルーのデニムというカジュアルな格好をしていた。いつもはパリッと少々固めな感じのするスーツ姿だけど、プライベートの彼のセンスも窺えてなんだか新鮮だ。その上やっぱりかっこいい!

「りょーかい。浅草のことなら任せろ。うーん、君は私服だと化粧のせいもあるけど、普段より大人っぽく見えるな」

「え? そ、そうですか?」

「ああ、もちろんパン屋で働いてる君も可愛いけど」

さすが弁護士、口がうまい。そんなふうには思いたくないけれどやっぱり照れる。

今日はバックリボンがついているニットのベージュワンピースに 黒のレザーショートブーツ。そして白いショルダーバッグを肩からさげている。シンプル過ぎたかな?と思いつつ、大人っぽく見えると言われて嬉しかった。

家を出て、浅草観光のスタート地点はやっぱり“浅草寺・雷門”ということで黒川さんに案内されるがまま歩き出した。
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