授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
「わ、平日でも結構観光客がいますね」

雷門前に到着すると、人がごった返していた。特に外国人観光客が目立つ。たぶん、黒川さんにとって浅草寺は行き慣れた場所だ。人も多いし、返って疲れさせしまうのではないか……と、この人だかりを見ると変に気を使ってしまう。

「人疲れしそうなら別の場所に行くか?」

「い、いえ、私は平気です。黒川さんこそ……すでに仕事で疲れてるのに」

「君だって仕事してるだろ?」

「そうですけど……」

お互いがお互いに気を遣い合って、それがなんだかおかしくて噴き出すと同じタイミングで黒川さんも笑う。

こういう笑いのツボが一緒っていいな……。

「せっかくだし、行ってみるか」

「はい!」

黒川さんの隣に並ぶ。横顔を見上げ、嬉しい、楽しい、と告げる代わりに笑顔を見せると、照れくさそうな顔をして彼は私の手を取った。思わずぎゅっと握り返してしまいたくなるくらいに温かい。

「ね、見て! あの人めちゃかっこよくない? 芸能人かな?」

「えー、でも彼女持ちじゃん」

なんて声がすれ違いざまに聞こえてドキリとする。

手をつなぎながら春の風に髪を梳かれ、ひと通り見て回ると浅草寺の隣に“心願成就”の浅草神社があると黒川さんが思いついたように言った。

「心願成就?」

「ああ、平たく言えば、願ったものは何でも叶うというとんでもないご利益だ。三社祭りって聞いたことあるだろ? この神社の大祭なんだ」
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