虐げられた悪役王妃は、シナリオ通りを望まない
衣裳部屋から居間に戻るのと同時にバンと乱暴に扉が開き、恐ろしい顔をしたランセルが無遠慮に部屋に入って来た。
この態度から私への最低限の礼儀すらも捨てたのだと分かる。
「その恰好はなんだ?」
着替えをしたことが気にくわないのか、ランセルの眉間のシワがますます深くなる。
「夜会に戻ることはないだろうと判断して着替えたんですが」
答えながら状況を確認する。
部屋に入って来たのはランセルひとりだけ。
しかし開け放たれた扉の向こうに数人の騎士がいる。恐らくランセルの部下だ。
体が大きく筋骨隆々。あの人たちを撒いて逃げるのは絶対無理だ。
となるとやっぱり交渉するしかない。
深呼吸して覚悟を決める。まずは状況を確認しよう。
「国王陛下の容体はいかがですか?」
「一命はとりとめたが、意識は戻らない」
ランセルはあからさまに不快そうにしながら答える。
「原因は何だったのですか? 医師は何と言ってますか?」
今度は我慢がならなかったのか、ランセルは声を荒げた。
「しらじらしいことを言うな! 貴様がやったのだろう!」
今にも牢屋に放り込まれそうな剣幕で責められ、内心かなり焦っているけど、落ち着けと自分に言い聞かせる。