虐げられた悪役王妃は、シナリオ通りを望まない
「先ほども言いましたが、やっていません。私は無実です」
淡々と答えると、ランセルの顔がますます歪む。
「ランセル殿下、お座りになりませんか? 落ち着いて話ましょう」
「罪人と話し合うつもりはない」
「それは誤解だと言いました。それに疑いがかかっていたとしても私が王妃であるのに変りはありません」
ランセルは嫌悪感を隠さずに私を睨んでいたけれど、しぶしぶと言った様子でソファーに腰を下ろした。
私が今のところはまだ王妃位にあると認めたのだろう。
少しは落ち着いてくれたようで、ほっとしながら交渉を始める。
「もう一度言いますが、私は何もしていません。私が部屋に着いたときには、既に国王陛下は倒れていたんです」
「そんな言い訳を信じると思うのか?」
「では逆に私がやったという明確な証拠はあるんですか? 部屋に居合わせただけでは状況証拠にしかなりませんが」
ランセルは思い切り眉をひそめる。ふとあることに気が付き私は続けて言う。
「考えてみればランセル殿下の犯行も可能ですよね。私より先に広間を出ているのですから。国王陛下を襲って直ぐに部屋を出て隠れる時間はあったはずですよ」
「馬鹿なことを言うな!」
ランセルは目を瞠ったあと、声を荒げる。
まさか自分が容疑をかけられるなんて思いもしなかったのだろう。