虐げられた悪役王妃は、シナリオ通りを望まない
「いいだろう。あなたを捕らえればベルヴァルト公爵家とも溝が出来る。今は余計な揉め事を起こしたくないからな。だが期間を設ける。ひと月だ」
一か月。かなり短い。でも、これ以上は譲歩しないだろう。
「分かりました。交渉成立ということで。私の部屋の前の兵士は解散させてくださいね」
「ああ」
そう言いつつもランセルは不本意そうだ。
嫌いな私と協力なんて嫌で仕方ないんだろう。
そんなところに悪いとは思うけど、もうひとつお願いがあった。
「ランセル殿下にお願いがあります」
「なんだ?」
まだ何も言ってないのに凄く嫌そう。
「国王陛下が倒れた今、ランセル殿下が全ての公務を代行しますよね。インベルの対応について、もう一度ロウと話して貰えませんか?」
「インベル? あれはもう解決しただろう」
「どう解決したんですか?」
「王家でも調査したが、インベルが攻めて来る気配はない。バルテル側の勘違いだから放っておいていい」
勘違い? そんな訳ない。ロウは真剣だったもの。確証が無ければわざわざ王家に直談判になんて来ないはずだ。
「その調査はどなたが?」
「宰相だ」
また宰相……影が薄い割にあらゆる話に登場する。
「その調査もう一度確認して欲しいです。それが無理でもロウの話を聞いて下さい」
ランセルは大きなため息を吐いた。
「そんな暇はない。気に留めなくてはならない案件は山ほどあるんだ。仮にインベルとバルテルの間で小競り合いが有ったとしても、バルテル単独でなんとでもなるだろう」
小競り合いなんかじゃないから困ってるのに。
どうやらランセルは軽く見ているようだ。
ただ以前も感じたけど、ランセルはバルテルを切り捨てるつもりはないみたい。
と言うより考えてもいない感じだ。