虐げられた悪役王妃は、シナリオ通りを望まない
「場所は薔薇の庭園なんだけど、マリアさんは見たことがある?」
「いいえ、初めてです」
「少し歩くんだけど、とても綺麗なところだから楽しみにしていてね」
「はい、楽しみです」
庭を突っ切る回廊を進み、薔薇の庭園近くで地面に降りる。
庭の中の小道と言っても舗装されているから、歩きやすい。木が沢山植えて有り空気が澄んでいる気がする。
さわさわと風に揺れる枝葉をなんとなく眺めていると、異変を感じた。
そんなに強い風が吹いている訳でもないのに、木が揺れる音がどんどん大きくなっているのだ
「え……なに?」
根拠はないけど、嫌な予感がする。
「急ぎましょう」
とにかく早く薔薇の庭園に行きたい。
あそこは開けて見晴らしがいいし、護衛もいる。
「どうかしましたか?」
マリアさんは変に思っていないみたい。
「私もよく分からないんだけど、なんだか嫌な感じが……」
その瞬間、ヒュンと音がした。と思ったら近くの木に矢がぐさりと突き刺さる。
え……嘘……。
唖然としていると、フランツ夫人の聞いたことのないような切羽詰まった声が響いた。