虐げられた悪役王妃は、シナリオ通りを望まない
「余計な心配でしたね。では国王陛下について教えて下さい。回復しているのですか?」
一応妻だと言うのに、なんの報告も受けていない。
ランセルはここで初めて、顔を曇らせた。
「宰相の息のかかった医師から別の者に変えたが、診立は回復する見込みはないとのことだ。宰相が言っていた通り、最早正常な判断が出来る状態ではなく、記憶も定かではない。これまでは宰相の言いなりになり行動していたようだ。今後国王の勤めを果たすのは不可能だろう」
「……そうなんですか。あのでは私を王妃に推薦したのは誰だったのですか?」
「宰相だ」
まさかの回答に驚いた。
エルマと繋がっている宰相である可能性は無いと思っていたのに。
「理由は知ってますか?」
「言い辛いが、あなたを罠に嵌めようとしていたようだ」
何のためらいもなくランセルが言った。
「罠に?」
「そうだ。宰相はもう数年前から国の財産を横領していた。その罪をあなたに被せようとしていたのだ。なぜあなたが選ばれたのかはまだはっきりしないが、私とローヴァインは、実家が騒ぎ立ない上に、王妃として権力を握っても不自然ではない身分の令嬢を探していたのではないかと考えている」
「そうですか」
たしかに公爵とエルマは私が断罪されても、何も言わないだろうからね。
「横領の件は宰相が犯人だと分かった為、表立っての取り調べは終了している。だが証拠は無いが共犯者は間違いなく存在する。宰相は殆ど財産を持っていなかったからな」
「もしかしてベルヴァルト公爵家ですか?」
「疑わしいが、ベルヴァルト公爵家は元々豊がで危険を冒してまで横領する必要はない。急に羽振りが良くなった形跡もない」
そうなるとリッツ男爵家?
夢で見た彼は明らかに何か企んでいたし公爵よりもエルマよりも狡猾そうだった。
けれどあれが現実という証拠はない。軽々しくランセルには言えない。
「最後に一番重要なことを伝える」
ランセルはそう言いながら居住まいを正す。何だろう?
「私は近い内に国王の位に就く」
「あ……そうですね。それがいいと思います」
国王はもう役目を果たせないのだもの。当然だ。
「その場合、あなたの身分は王太后となる」