虐げられた悪役王妃は、シナリオ通りを望まない
「ランセル王太子は触れなかったベルヴァルト公爵家についてだけど」

「うん、どうなったの?」

「疑わしい面は多々あるが今のところ証拠がなく、残念だが何も出来ない。ただ水面下で調査は続けていくからいずれ何か分るかもしれない」

「そう……」

明確な証拠もなく公爵程の高位の人間を捕まえるなんて出来ないんだろう。

でもこのまま見過ごすのも悔しい。証拠だってこのまま出て来ないかもしれないし。

アリーセだって本当に悪い人に罰が下って欲しいって願っていたじゃない。

せめてあの人たちに不安を与えられたら……。

「どうかしたか?」

「いえ、何でもないんだけど、そうだ、レオナはどうなったか知ってる?」

彼女はあの日以来、私の前に現れていない。

「逃亡しているところを捕まえた。事情を聞いているところだが無事でいるよ。リセに会わせることは出来ないが」

「うん。それは分かってる」

普段の彼女は良い子だったから、残念だけどしっかりと罪を償ってほしい。

「リセ……俺はランセル王太子の戴冠式が済んだらバルテルに戻る。その後は当分王都には戻らない」

「え? どうして?」

ロウがいなくなってしまうなんて、しかも戻って来ないなんて……胸がずきりと痛んだ。

彼との別れだけは、なぜか想像出来なかったから、こんな日が来るなんて思わなかった

「カレンベルク王家との関係は正常化したが、インベルとの問題が完全に解決した訳じゃない。俺には戻ってバルテルを守る役割がある」

「そっか……ロウは次の辺境伯様だもんね」

彼の帰りを待ち望んでいる人は沢山いるんだろう。でも私は……。

「ロウと別れるの寂しいな……」

本当は寂しいなんてものじゃない。絶望している。

「そうだな。俺も寂しいし、リセが心配だよ。抜けてるところがあるからな」

「もう、抜けてるって失礼でしょ?」

「本当のことだろ?」

こんな風に言い合うこともないんだ。

「……バルテルに連れて行ってくれるって言ったくせに」

胸が痛くてつい責めるような言葉が漏れてしまった。

「言ったな。そう出来ればいいと思ってたよ」

「王太后になったら無理だよね?」

「ああ、そうだな」

「……」

それ以上に言葉が出て来なかった。

ロウが見たこともないような悲しい顔をしていて、彼も別れを悲しんでくれていると気付いたから。

あと何度会えるのだろう。

そう思いながら出て行く彼を見送った。
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