男女7人!?夏物語~アイドルHinataの恋愛事情【3】~

11 『Hinata』お披露目。

 東京、福岡、名古屋、仙台、広島、札幌、大阪。
 『SEIKA』のコンサートが行われた都市だ。
 
 希に言われた通り、俺たちはそれに同行して、『Hinata』のお披露目をしてきた。
 ……そう、『してきた』ということは、既に終えた、ということで。
 そして、最後の大阪会場の控え室。
 
「…………っがぁぁあぁぁ!! 終わった!!」
「『終わった』って、樋口くん、これがボクらの『始まり』なんだよ? まだ準備体操みたいなもんだよ」
 
 中川が、いつも通りさわやかに笑って言った。
 
「でも樋口くん、この短期間でよくついてこれたね。直前まで『無理』とか言ってたのに、ステージに上がっちゃうと堂々としたもんだったし」
「開き直るしかねーだろ? っつーか、正直どんなだったか覚えてねーしよ」
「ボクなんて、何度か『SEIKA』のバックで踊ったりしたことあるけど、最初はもう心臓バクバクで、何もできなかったよ」
「そういえばよ。おまえらって、実はスゲーのか? おまえらの名前のうちわやら、横断幕みたいなのやら、持ってる観客たくさんいたぞ?」
「なんだ、そんなものまで見えてたんだ。樋口くん、余裕じゃん?」
「……視力だけは、バカみたいにいいからな」
「ファンの人の中には、既存のグループのバックで踊ってるコたちに目をつけてる人も結構いるからね。名前と年齢や出身地くらいなら、どこからか情報が出てるみたい」
「どこからだよ」
「さぁ? わかんないけど。すごいよね、『SEIKA』がボクたちのこと呼ぶと、みんな一斉に持ってるうちわとか、持ちかえるんだもん。……あ、そういえば、仙台あたりから、樋口くんの名前を掲げてるコもみかけたよ」
「……俺の?」
「そう。東京、福岡、名古屋とやってきて、もう樋口くんのファンができたんだよ。全国でやるコンサート、いくつも見にくるお客さんもいるしね」
「……俺の……ファン?」
「そうだよ。既にテレビや雑誌で、ボクらがデビューするって情報は流れてるわけだし、コンサートに来られなかった人の中にも、いるかもしれないよ」
 
 そう言って、中川はスポーツドリンクを飲み干すと、高橋の肩をたたいた。
 
「まぁ、今日は大阪だったから、圧倒的に高橋の名前が多かったけどね」
「……そうやったかな」
「そうだよ。……あ、ボク、聞いたことあるよ。高橋って、大阪でコンサートやるグループのバックで踊るコたちの中では一番人気なんだって。衣装替えなんかでメインのグループが下がってるときの時間つなぎで、一人で一曲やったらしいじゃん」
「一人で!? 高橋、おまえスゲーな!?」
「……やらされたんやから、しゃーないやん。ほんのちょっとやったし。盟くんかて、その時間つなぎでようMCやってるの、あの盟くんのしゃべり聞きたさに来てるお客サンもいてるってウワサやし」
 
 ……なんだ、この二人、やっぱスゲーな。
 こんな二人と一緒に、俺みたいな『ド素人』が……大丈夫なんだろうか?
 
 
 
 
「諒ク~~~~ン!! お疲れ様!!」
 
 控え室に入ってきたのは、高橋の妹の奈々子ちゃんだった。
 
「おまえ、なんで来たんや?」
「アニの晴れ舞台を見に」
「……そうやなくて、なんで控え室まで来たんや? って聞いてるんや」
「母さんが、事務所の人にあいさつするから、あたしはこっち来ていいって言うてた。……盟にぃも、直にぃも、こんにちはっ」
 
 奈々子ちゃんは、礼儀正しくペコリと頭を下げた。
 
「おぅ、奈々子、久しぶりっ。夏休みの宿題は終わった?」
「うんっ。盟にぃが教えてくれたから、東京にいる間にほとんど終わったんよ」
「奈々子ちゃん、俺も教えてやったろ?」
「直にぃは、ちょこっとだけだったやん。いつも疲れて寝てはったし」
「……そうだったか?」
 
 そういえば、奈々子ちゃんと話した記憶はあまりないな。
 
「そうや。でも、そんだけ頑張ってるってことなんよね? あたしの学校の友達にも、直にぃのファンのコ、いっぱいいるんよ」
「お、ほんとか?」
「うん。あたしが直にぃの宣伝しといたんよ。諒クンのことは、みんなあたしのお兄ちゃんって知ってて怖がってるし」
「……怖がってる?」
「そうそう。諒クン、中学で副ば――」
「だぁぁああぁあ!! 奈々子っ!! 余計なこと言わんでええねん!!」
「副番長してるんよ」
「副番長!?」
 
 俺と中川は同時に驚きの声を上げた。
 
「この、いかにも『優等生』な感じの高橋が!?」
「……母が昔、『伝説の番長』やったらしくて、それで無理矢理やらされてんねん」
「諒クンの目からは、ビームが出るねん。それで、何人も殺られてんねんて」
 
 奈々子ちゃんは、目からビームが出るしぐさをした。
 ……あながち、冗談に聞こえないから、怖い。
 
「この間、大阪に帰ってきたときにも、それで後輩を一人()ってんねん」
「……殺ってへんよ」
「福山さんが言うてたよ。『諒さんに殺られた……』って」
「あれは……アイツが悪いんや。……っていうか、殺ってへんし、ビームなんて出ぇへんし」
「ねぇねぇ、奈々子、ボクの宣伝はしてくれてないの?」
 
 高橋と奈々子ちゃんの話がややこしくなる前に、中川が話題を変えた。
 
「えっ……め、盟にぃは……ほら、だって、あたしが宣伝せんでも、もういっぱい人気あるんやろ?」
「あぁ、そうだよな。中川は既に大量のファンを獲得してんだもんな」
「直にぃ、頑張ってね!! あたし、応援してっからね!!」
 
 奈々子ちゃんは、両手をグーにして、力いっぱい言った。
 俺は、少々圧倒されつつ答えた。
 
「……お、おう。ありがとなっ」
 
 
 
 
 
 
「やぁ、キミたち。頑張ってたね?」
 
 背後から聞きなれた声がした。
 振り返ると、半袖の白いYシャツに膝丈のジーパンを履いた美少年が立っていた。
 
「の……希!!」
 
 希の姿を見るのは、希が『片桐ヨーコの誕生日に彼女に会いに行く』と言って出掛けた以来だから……二週間ちょっとぶりくらいだ。
 
「身体の方は……大丈夫なのか?」
「うん、おかげさまで、もう全然大丈夫だよ」
 
 希はニッと笑って、アメリカ人のように両手を広げて見せた。
 
「どうしたんだ? わざわざ大阪まで……」
「『どうした』って……キミたちの晴れ舞台を見に」
「ちょっと、それ、あたしのセリフなんやけど」
 
 奈々子ちゃんが、ずいっと俺と希の間に割って入った。
 
「……何でキミがココにいるのさ? 部外者は立ち入り禁止のハズだよ?」
「あたしは諒クンの妹やもん。アニの晴れ舞台を見に来たんやもん」
「…………へぇぇー。『アニ』の晴れ舞台、ね」
「な、なによっ」
「別にぃ」
「なんやの? 言いたいことがあるんやったら、言うたらええやないのっ」
 
 希と奈々子ちゃんが言い争いを始めてしまった。
 ……こりゃ、完全にガキのケンカだな。
 
「はいはい、二人ともそのくらいにしといたら?」
 
 奈々子ちゃんと希の口ゲンカを、中川が制止した。
 
「奈々子はかわいいからさ、希さんがかまいたくなる気持ちも分かるけどね。ほら、小学生のころあったよね、気になるコにわざとイタズラしちゃったりとか……ねぇ、樋口くん?」
「あぁ、あったな、ガキのころは……」
「高校生にもなったら、さすがにそんなことしないもんね。いや~、懐かしいな、そんな子どものころ……」
「……コドモだって。聞いた? ボクらは高校生から見たらコドモなんだってさ」
 
 希は、奈々子ちゃんの顔を覗き込んで言った。
 
「わっ……わかってるもん、そんなこと」
「ふぅん……。ま、ボクはコドモだけどカノジョいるし。関係ナイけど」
「……………………」
 
 黙り込んでしまった奈々子ちゃんは……、うぉっ? 今にも泣きそうだ。
 
「おい、希。また奈々子ちゃんを泣かす気か?」
「ナンだよ? 言っとくケド、ボクが泣かせてるんじゃナイよ?」
「は? じゃぁ、誰が泣かせてるって言うんだよ?」
 
 俺が問うと、希はわざとらしく首をかしげた。
 
「さぁ? 知らナーイ」
 
 
 
 
 
 
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