男女7人!?夏物語~アイドルHinataの恋愛事情【3】~
14 地元、静岡にて。
翌日。
結局、三人に東京駅まで見送られて新幹線に乗り込んで。
降りたのは、俺の地元……静岡県の、とある駅。
そこから、在来線の電車を使って……自宅へ。
「ただい……ま」
ガララッと玄関の引き戸を開けると、視線の先に俺の顔があった。
こんなところに鏡なんてあったか?
……違う。
……………………。
「……なんでウチにHinataのポスターが貼ってあんだよ!?」
「あぁー、直っ!! おかえり!!」
家の奥から、母がバタバタと出てきた。
「かぁちゃん! こんなん貼っとくなよ! 恥ずかしーだろ!?」
「あら、いいじゃないの」
「っつーか、どこで手に入れたんだよ、こんなもん?」
「もらったのよ。えーっと、あの、なんて言ったかしら? 小学生くらいの、カワイイ男の子……」
希の仕業かっ。
「ほんと、びっくりしたわよ。あんたが、あのハギーズに入るなんてねぇ。進路を決めてなかったの、もしかして、そのためだったの?」
「んなわけ、ねーだろ? 偶然だよ」
「そうなの? ……まぁ、なんにしても、やりたいことが見つかったんなら、いいことじゃない?」
母は、グラスに麦茶を注いで俺に手渡した。
「やりたいこと……ねぇ」
「違うの?」
俺がつぶやいた独り言を、母は聞き逃さなかった。
「……わかんねーんだよな。楽しいことは楽しいし、やりがいはありそうなんだけど……自発的にやりてぇって思ったわけじゃねーし……」
俺は、麦茶を飲み干すと、テーブルにグラスを置いた。
「……でも、さっき帰ってきたときのあんたの顔、いい顔してたわよ?」
「いい顔?」
「そう。『カッコイイ』っていうんじゃなくて、なんていうの? こう……ぴかぁ~~~て光ってるっていうか、すかぁ~~っとしてるっていうか」
……意味わかんねーけど、たぶん、褒めてるんだよな?
親に褒められるってのは、やっぱ悪い気はしねーよな。
「……あぁ、そうそう。夏休みに入ったころに、あんた宛てに電話がかかってきたわよ?」
「俺に?」
「えっと……誰だったかしら」
母は、月めくりのカレンダーを7月に戻して確認した。
「あ、これこれ。……『フジタさん』って女の子から」
『フジタ』……?
…………って、まさか、美里!?!
「『しばらく家にいない』って伝えたら、『あぁ、そうですか』って、それから電話かかってこなかったけど……。あ、もしかして、あんたの彼女?」
「ちっ……ちちち違うっ。ガッコーの、クラスメートだよっ」
なななんで……美里が俺に電話なんか!?
落ち着けっ!!俺!!冷静になれっ!!
……そうだ、あいつは、クラスメートなんだ。
きっと、何らかの業務連絡に違いない。うん。
だとしたら、連絡つかなくて困ってるだろうな。
気まずいけど……こっちから連絡した方がいいかもな。
……と、電話の前まで来てみたはいいけど。
…………………………………………。
…………………………………………。
…………………………やっぱ、明日にしよう。
そして、翌日。
「……あんた、朝から電話の前で何時間正座してんの?」
昼食の準備をしていた母にツッコまれた。
「『フジタ』さんに電話するんでしょう? あんた、男ならサクッと掛けちゃいなさいよ」
「うっせーな、わかって……」
――――ジリリリリンッ!!
「うぉ!?」
目の前で電話が鳴った(黒電話だよ、なんだよワリィかよ?)。
「かぁさん忙しいから、あんた出てよー」
ちっ……しょーがねぇな。
「……はい。樋口ですけど……」
『あ、えっと……藤田といいますが、直くんは……いらっしゃいますか?』
……み、みみみ美里だっ!!
おおおおお落ち着けっ。落ち着けって、俺っ!!!
「……俺だけど」
『……あっ、……樋口?』
「あぁ…………」
『……………………』
「……………………」
……うぁぁ、なんだ、この妙な『間』は?
とにかく、男ならサクッと……謝るべきだな?
「あ、……あのよ、このあいだは……」
『あのっ、このあいだは、ごめんねっ?』
「…………え? 謝るのは、俺の方だろ?」
『ううん、あたし、あの時びっくりしちゃって……。だって、樋口が……あんなことするなんて、思ってもみなかったから……』
要するに、眼中になしってことかよ。
「いや、だから……俺の方こそ、ごめんな? その……忘れてくれっ」
『……え?』
「何もなかったことに……って、やっぱ、無理か?」
『……じゃぁ、いままで通り、友達ってこと?』
「あぁ、うん……。そう。……友達」
『…………うん、そうだね。友達……だもんね。』
「………………………………」
『………………………………』
かっ……会話が続かねぇぇ。
「…………と、ところで、用件はなんなんだ?」
『え? 用件?』
「だって、業務連絡なんだろ?この電話」
『業務連絡? ……何言ってんの? 違うよ。連絡網だったら、樋口の方から掛ってくるはずでしょ?
五十音順なんだから』
「あ…………そうか」
……そういえば、そうだった。
『ヒグチ』→『フジタ』だもんな。
「じゃぁ、なんの用……」
『何って、だから……謝ろうと思って』
「あ……そうなのか? わざわざ?」
『……なによ。悪い?』
「いや………そうじゃなくて、その……ありがとな」
『え? あ、うん』
「じゃぁ、えっと……明後日の始業式にガッコーでな」
『えっ!? あ、うん、学校……あ、そういえば、樋口、夏休みの出校日にいなかったよね。あの、文化祭のことなんだけど……。』
「文化祭? ……あ、ワリィ、俺、今年の文化祭は参加できそうにねぇんだけど」
『…………え、そうなの? なんで?』
……『なんで』って、どう説明したらいいんだ?
っつーか……知らねぇのかな。
美里、『ハギーズ』とかには興味ないって前に言ってたしな。
「あの、実は……いろいろ事情があって、昨日まで東京にいたんだ。明後日の始業式には行くけど、その後また東京に戻るから、しばらくガッコーに行けそうにねぇんだ」
『えっ? 東京?』
「あぁ。文化祭って10月の頭だろ? 次にガッコー行けるのは……そうだな、11月くらいか。だから……文化祭は、無理だな」
『そっか……。なんか、ちょっと……さみしいな』
美里が……『さみしい』って言ってるっ。
なんだ、おい、もしかして、夢か!?
『……樋口さぁ、明日……忙しい?』
「え? 明日? ……いや、特に用事はねーけど。……なんで?」
『あ、あのさ、よかったら明日、どこか……遊びに行かない?』
ななななにっっ?
俺、もしかして、いま……美里に誘われてんのか?
おおおお落ち着けってば、俺!!
「……あぁ、もちろん、構わねーけど」
『ほんと? じゃぁ……』
待ち合わせの時間と場所を美里から聞いた俺は、「あぁ、じゃぁ……明日な」と言って電話を切った。
……おいおい、なんて展開なんだよ?
高校3年、17歳。
学生生活最後(大学には行けそーにないし)の夏休みも明日は最終日。
人生初の、『女と二人っきりでデート』。
しかも……相手は(一度振られたとはいえ)2年も片想いしていた、美里と。
こりゃぁ、明日は、『逆転サヨナラホームラン』か!?
って、何浮かれてんだよ、俺は!?
…………………………………………。
「……って、何見てんだよっ、かぁちゃん!」
「だって、あんたさっきからニヤニヤして気持ち悪いから」
……って、そういうかぁちゃんの方こそ、ニヤニヤしてんじゃねぇか!
結局、三人に東京駅まで見送られて新幹線に乗り込んで。
降りたのは、俺の地元……静岡県の、とある駅。
そこから、在来線の電車を使って……自宅へ。
「ただい……ま」
ガララッと玄関の引き戸を開けると、視線の先に俺の顔があった。
こんなところに鏡なんてあったか?
……違う。
……………………。
「……なんでウチにHinataのポスターが貼ってあんだよ!?」
「あぁー、直っ!! おかえり!!」
家の奥から、母がバタバタと出てきた。
「かぁちゃん! こんなん貼っとくなよ! 恥ずかしーだろ!?」
「あら、いいじゃないの」
「っつーか、どこで手に入れたんだよ、こんなもん?」
「もらったのよ。えーっと、あの、なんて言ったかしら? 小学生くらいの、カワイイ男の子……」
希の仕業かっ。
「ほんと、びっくりしたわよ。あんたが、あのハギーズに入るなんてねぇ。進路を決めてなかったの、もしかして、そのためだったの?」
「んなわけ、ねーだろ? 偶然だよ」
「そうなの? ……まぁ、なんにしても、やりたいことが見つかったんなら、いいことじゃない?」
母は、グラスに麦茶を注いで俺に手渡した。
「やりたいこと……ねぇ」
「違うの?」
俺がつぶやいた独り言を、母は聞き逃さなかった。
「……わかんねーんだよな。楽しいことは楽しいし、やりがいはありそうなんだけど……自発的にやりてぇって思ったわけじゃねーし……」
俺は、麦茶を飲み干すと、テーブルにグラスを置いた。
「……でも、さっき帰ってきたときのあんたの顔、いい顔してたわよ?」
「いい顔?」
「そう。『カッコイイ』っていうんじゃなくて、なんていうの? こう……ぴかぁ~~~て光ってるっていうか、すかぁ~~っとしてるっていうか」
……意味わかんねーけど、たぶん、褒めてるんだよな?
親に褒められるってのは、やっぱ悪い気はしねーよな。
「……あぁ、そうそう。夏休みに入ったころに、あんた宛てに電話がかかってきたわよ?」
「俺に?」
「えっと……誰だったかしら」
母は、月めくりのカレンダーを7月に戻して確認した。
「あ、これこれ。……『フジタさん』って女の子から」
『フジタ』……?
…………って、まさか、美里!?!
「『しばらく家にいない』って伝えたら、『あぁ、そうですか』って、それから電話かかってこなかったけど……。あ、もしかして、あんたの彼女?」
「ちっ……ちちち違うっ。ガッコーの、クラスメートだよっ」
なななんで……美里が俺に電話なんか!?
落ち着けっ!!俺!!冷静になれっ!!
……そうだ、あいつは、クラスメートなんだ。
きっと、何らかの業務連絡に違いない。うん。
だとしたら、連絡つかなくて困ってるだろうな。
気まずいけど……こっちから連絡した方がいいかもな。
……と、電話の前まで来てみたはいいけど。
…………………………………………。
…………………………………………。
…………………………やっぱ、明日にしよう。
そして、翌日。
「……あんた、朝から電話の前で何時間正座してんの?」
昼食の準備をしていた母にツッコまれた。
「『フジタ』さんに電話するんでしょう? あんた、男ならサクッと掛けちゃいなさいよ」
「うっせーな、わかって……」
――――ジリリリリンッ!!
「うぉ!?」
目の前で電話が鳴った(黒電話だよ、なんだよワリィかよ?)。
「かぁさん忙しいから、あんた出てよー」
ちっ……しょーがねぇな。
「……はい。樋口ですけど……」
『あ、えっと……藤田といいますが、直くんは……いらっしゃいますか?』
……み、みみみ美里だっ!!
おおおおお落ち着けっ。落ち着けって、俺っ!!!
「……俺だけど」
『……あっ、……樋口?』
「あぁ…………」
『……………………』
「……………………」
……うぁぁ、なんだ、この妙な『間』は?
とにかく、男ならサクッと……謝るべきだな?
「あ、……あのよ、このあいだは……」
『あのっ、このあいだは、ごめんねっ?』
「…………え? 謝るのは、俺の方だろ?」
『ううん、あたし、あの時びっくりしちゃって……。だって、樋口が……あんなことするなんて、思ってもみなかったから……』
要するに、眼中になしってことかよ。
「いや、だから……俺の方こそ、ごめんな? その……忘れてくれっ」
『……え?』
「何もなかったことに……って、やっぱ、無理か?」
『……じゃぁ、いままで通り、友達ってこと?』
「あぁ、うん……。そう。……友達」
『…………うん、そうだね。友達……だもんね。』
「………………………………」
『………………………………』
かっ……会話が続かねぇぇ。
「…………と、ところで、用件はなんなんだ?」
『え? 用件?』
「だって、業務連絡なんだろ?この電話」
『業務連絡? ……何言ってんの? 違うよ。連絡網だったら、樋口の方から掛ってくるはずでしょ?
五十音順なんだから』
「あ…………そうか」
……そういえば、そうだった。
『ヒグチ』→『フジタ』だもんな。
「じゃぁ、なんの用……」
『何って、だから……謝ろうと思って』
「あ……そうなのか? わざわざ?」
『……なによ。悪い?』
「いや………そうじゃなくて、その……ありがとな」
『え? あ、うん』
「じゃぁ、えっと……明後日の始業式にガッコーでな」
『えっ!? あ、うん、学校……あ、そういえば、樋口、夏休みの出校日にいなかったよね。あの、文化祭のことなんだけど……。』
「文化祭? ……あ、ワリィ、俺、今年の文化祭は参加できそうにねぇんだけど」
『…………え、そうなの? なんで?』
……『なんで』って、どう説明したらいいんだ?
っつーか……知らねぇのかな。
美里、『ハギーズ』とかには興味ないって前に言ってたしな。
「あの、実は……いろいろ事情があって、昨日まで東京にいたんだ。明後日の始業式には行くけど、その後また東京に戻るから、しばらくガッコーに行けそうにねぇんだ」
『えっ? 東京?』
「あぁ。文化祭って10月の頭だろ? 次にガッコー行けるのは……そうだな、11月くらいか。だから……文化祭は、無理だな」
『そっか……。なんか、ちょっと……さみしいな』
美里が……『さみしい』って言ってるっ。
なんだ、おい、もしかして、夢か!?
『……樋口さぁ、明日……忙しい?』
「え? 明日? ……いや、特に用事はねーけど。……なんで?」
『あ、あのさ、よかったら明日、どこか……遊びに行かない?』
ななななにっっ?
俺、もしかして、いま……美里に誘われてんのか?
おおおお落ち着けってば、俺!!
「……あぁ、もちろん、構わねーけど」
『ほんと? じゃぁ……』
待ち合わせの時間と場所を美里から聞いた俺は、「あぁ、じゃぁ……明日な」と言って電話を切った。
……おいおい、なんて展開なんだよ?
高校3年、17歳。
学生生活最後(大学には行けそーにないし)の夏休みも明日は最終日。
人生初の、『女と二人っきりでデート』。
しかも……相手は(一度振られたとはいえ)2年も片想いしていた、美里と。
こりゃぁ、明日は、『逆転サヨナラホームラン』か!?
って、何浮かれてんだよ、俺は!?
…………………………………………。
「……って、何見てんだよっ、かぁちゃん!」
「だって、あんたさっきからニヤニヤして気持ち悪いから」
……って、そういうかぁちゃんの方こそ、ニヤニヤしてんじゃねぇか!