男女7人!?夏物語~アイドルHinataの恋愛事情【3】~
01 終業式。
「ゴメン。オレ、他に好きなコがいるから……」
高校3年の夏休み直前。
あたしは、2年も片思いしていた彼に、あっさりとフラれてしまった。
……わかってた。
彼がいつも見ているのが、あたしではなく、その隣にいるクラスでも中心的存在である、あたしの友達であることくらい、彼を好きになったころからわかってたことだった。
だけど……。
どうして、告白なんかしちゃったんだろう。
誰にも、彼にも知られないまま卒業するんだって、心に決めてたのに。
明日から夏休みっていうのが、せめてもの救いだ。
一か月以上もあれば、きっと、次に学校で会っても普通に笑って話せる。
きっと――――。
……あ、やだな、なんで?
なんで、涙なんて出てくるの?
ここ、学校だよ? こんなとこで泣いて、誰かに見られでもしたら――。
「……美里?」
背後から名前を呼ばれた。
……誰?
あたしは、手の甲でぐいっと涙をぬぐって振り返った。
「樋口……?」
あたしの名前を呼んだのは、クラスメートの樋口だった。
「美里、おまえ…………」
「あ、えっと、あれ? あたし、日直だったっけ?」
「いや、そーじゃなくて……」
「じゃ、じゃぁ、掃除当番? 委員会? えっと……なんだっけ?」
あたしが取り繕うように言うと、樋口は首を横に振った。
「そーじゃねーよ。おまえ、大丈夫か?」
「なっ……どういう意味よ? あたしが頭おかしいみたいじゃない」
「あ、ワリィ、違うんだ。……さっき、その……見ちまった。……ゴメン」
『さっき』って……まさか、あたしがフラれたの……見てたの!?
うわちゃぁ~~、カッコ悪い……。
「だから、『大丈夫か?』って聞いてんだけど……」
「あ、あたしは、全然平気よ? こんなこと、最初っから分かってたこと――」
そのとき頬に、ほんの数分前にも感じた感覚。
あわわ……人前で……、しかも、クラスメートの前で……。
「美里……」
樋口があたしの名前を口にした瞬間、あたしの腕は樋口につかまれていた。
「あんな男のことなんか、俺が忘れさせてやるよ……っ!!」
あたしの身体が、グイッと樋口の方へと引き寄せられる。
ええぇぇえええっっっっっっ??
ちょっ……何!?
わわわわっっっっま、待っ…………。
――――ドゴッ!!
「…………ってぇ!!」
………………え? なに? いまの。
って……、ちょっ……あたし……樋口に蹴り!?
「……っざけんじゃないわよ!! 冗談やめて!!」
あたしに蹴りをいれられてお腹を抱えていた樋口は、ゆっくりとあたしの顔を見た。
相当驚いてる……って、そりゃそうでしょ?
この行動をとってる、あたし自身が信じられないんだもの!
「あんたなんてね、問題外よ! あんたに忘れさせてもらうくらいなら、その辺の野良犬になぐさめてもらったほうがマシよ!」
あたしの身体は、くるりと樋口に背を向けると、ダッシュでその場(一応言っておくと、学校の校舎裏だったのよ)を後にした。
「あああぁぁ……やっちゃった…………」
無意識に自分のクラスまで走ってきたあたしは、誰もいない教室の床に座り込んだ。
頭を抱えて、自分のしでかした行動に、激しく反省。
告白してフラれたことに関しては、仕方ない。
むしろ、言ってしまってすっきりした部分もあるから、これでよかったのだとも思う。
あたしが激しく反省すべきは、その後。
樋口に腕をつかまれて、引き寄せられそうになって。
……で、蹴りだ。
しかもその後の……暴言。
「なんで、あんなふうになっちゃうかなぁ?」
なんで、蹴りなのよ?
せめて、ひっぱたくとか、なんかこう……もうちょっと女らしい拒絶の仕方ってものがあるでしょう?
それでもって、『野良犬以下』扱いって……。
あたし、昔っから、こんなだ。
『女らしいこと』なんて何一つできやしなくて。
両親をはじめとする身内からは、『素直じゃないコ』というレッテルを貼られている。
せめて学校では、それを出さないように、って今まで頑張ってきたつもりだったんだけれど。
ここへきて、その努力はもろくも崩れ去ってしまった。
だって、樋口があんなことするから…………。
……え、ちょっと待って。
樋口は……えっと、なんて言ってたんだっけ?
『あんな男のことなんか、俺が忘れさせてやるよ……っ!!』
…………………………………………。
あ……え? そ、それって、もしかして。
もしかして、もしかして、………………もしかして!?!?
やややややや、落ち着け、あたし。
樋口は、あたしの失恋現場を目撃したって言ってたんだから、きっと単純にあたしをなぐさめるつもりで言ってくれたんだ。
うん。きっとそうだ。
そう……だよね?
時間の経過と共に、少しずつ冷静さを取り戻して。
あたしは、樋口に謝らなきゃいけない、と思った。
一学期の終業式であるこの日。
既にお昼のバラエティー番組の生放送が始まってるような時間には、部活動のために残っている生徒たちも、みんなお弁当やコンビニのパンなんかで昼食をとっている。
樋口は……えっと、何部だったかな。
あたしの中の、樋口に関する記憶をゆっくりとたどっていく。
樋口とは、この学校に入学して以来、一年生のときからずっと同じクラスだった。
クラスでは、どちらかというと目立つような存在ではなく。
かといって、暗くおとなしい存在、というわけでもない。
いたって、普通。そんなイメージしかない。
……あ、そういえば、毎年6月に行われる合唱コンクールでは、いつもピアノで伴奏を弾いていた。
と、いうことは、もしかして……合唱部?
あたしは、そんな頼りない推理のもと、音楽室へと向かった。
「樋口くんは、合唱部じゃないよ、今は」
昼食を終えて練習の準備をしていた合唱部の部長(彼女も、あたしのクラスメートだ)が答えた。
「……え? 今は? ……ってことは、昔は合唱部だったの?」
「そうそう。一年のときはね。あの人、ピアノ弾けるからって顧問の先生がスカウトみたく連れてきたんだけど、二年に上がる少し前に、理由も言わずに辞めちゃった」
「そっか……そうなんだ。……あ、ねぇ、今は何部に入ってるか、知らない?」
「今? んー……何もやってなかったと思うよ。たぶん、帰宅部じゃないかな」
帰宅部……と、いうことは、当然この校内には既にいないってことか……。
「樋口くんが、どうかしたの? 委員会でもサボった?」
「あ、ううん、違うの。ちょっと借りてたもの返すの忘れちゃって……」
なんでか、とっさに嘘をついちゃった。
「あらら、これから夏休みだっていうのにね。美里ってやっぱドジだね」
「あははっ。ほんとだね。電話して謝っとく。……ありがとねっ。部活頑張ってね!」
あたしが笑って手を振ると、合唱部部長も同じく笑顔で手を振った。
あたしは、とぼとぼと家までの道のりを歩きながら、考えてた。
何を考えてたかって……樋口のことだ。
月曜日の朝に体育館で行われる朝礼では、出席番号順に並ぶからあたしはいつも樋口の後だった。
あたしの後の女子は、更にその後の女子との話に夢中だったから、あたしは樋口とよく、たわいもない雑談をしてた。
いつだったか、あたしが貧血を起こして倒れそうになったとき、たまたま振り返った樋口が気づいてくれて、あたしの身体を支えてくれたんだっけ。
それ以来、「また、おまえ倒れるかもしれねーから」って言って、樋口はあたしの後ろに並んでくれて、それは学年が上がってからも変わることなく続いてた。
二年生の秋に行った修学旅行では、これまた出席番号の関係で、あたしと樋口は同じグループだった。
四国にあるこんぴらさんの石段で、うっかり足をくじいてしまったあたしに、樋口は肩を貸してくれて、一緒に下まで降りてくれた。
その後も、修学旅行が終わるまでずっと、荷物を持ってくれたり、班長だったあたしの代わりに連絡係やってくれたり……。
いま思うと、あたし……樋口にいろいろと助けられてたんだ。
高校3年の夏休み直前。
あたしは、2年も片思いしていた彼に、あっさりとフラれてしまった。
……わかってた。
彼がいつも見ているのが、あたしではなく、その隣にいるクラスでも中心的存在である、あたしの友達であることくらい、彼を好きになったころからわかってたことだった。
だけど……。
どうして、告白なんかしちゃったんだろう。
誰にも、彼にも知られないまま卒業するんだって、心に決めてたのに。
明日から夏休みっていうのが、せめてもの救いだ。
一か月以上もあれば、きっと、次に学校で会っても普通に笑って話せる。
きっと――――。
……あ、やだな、なんで?
なんで、涙なんて出てくるの?
ここ、学校だよ? こんなとこで泣いて、誰かに見られでもしたら――。
「……美里?」
背後から名前を呼ばれた。
……誰?
あたしは、手の甲でぐいっと涙をぬぐって振り返った。
「樋口……?」
あたしの名前を呼んだのは、クラスメートの樋口だった。
「美里、おまえ…………」
「あ、えっと、あれ? あたし、日直だったっけ?」
「いや、そーじゃなくて……」
「じゃ、じゃぁ、掃除当番? 委員会? えっと……なんだっけ?」
あたしが取り繕うように言うと、樋口は首を横に振った。
「そーじゃねーよ。おまえ、大丈夫か?」
「なっ……どういう意味よ? あたしが頭おかしいみたいじゃない」
「あ、ワリィ、違うんだ。……さっき、その……見ちまった。……ゴメン」
『さっき』って……まさか、あたしがフラれたの……見てたの!?
うわちゃぁ~~、カッコ悪い……。
「だから、『大丈夫か?』って聞いてんだけど……」
「あ、あたしは、全然平気よ? こんなこと、最初っから分かってたこと――」
そのとき頬に、ほんの数分前にも感じた感覚。
あわわ……人前で……、しかも、クラスメートの前で……。
「美里……」
樋口があたしの名前を口にした瞬間、あたしの腕は樋口につかまれていた。
「あんな男のことなんか、俺が忘れさせてやるよ……っ!!」
あたしの身体が、グイッと樋口の方へと引き寄せられる。
ええぇぇえええっっっっっっ??
ちょっ……何!?
わわわわっっっっま、待っ…………。
――――ドゴッ!!
「…………ってぇ!!」
………………え? なに? いまの。
って……、ちょっ……あたし……樋口に蹴り!?
「……っざけんじゃないわよ!! 冗談やめて!!」
あたしに蹴りをいれられてお腹を抱えていた樋口は、ゆっくりとあたしの顔を見た。
相当驚いてる……って、そりゃそうでしょ?
この行動をとってる、あたし自身が信じられないんだもの!
「あんたなんてね、問題外よ! あんたに忘れさせてもらうくらいなら、その辺の野良犬になぐさめてもらったほうがマシよ!」
あたしの身体は、くるりと樋口に背を向けると、ダッシュでその場(一応言っておくと、学校の校舎裏だったのよ)を後にした。
「あああぁぁ……やっちゃった…………」
無意識に自分のクラスまで走ってきたあたしは、誰もいない教室の床に座り込んだ。
頭を抱えて、自分のしでかした行動に、激しく反省。
告白してフラれたことに関しては、仕方ない。
むしろ、言ってしまってすっきりした部分もあるから、これでよかったのだとも思う。
あたしが激しく反省すべきは、その後。
樋口に腕をつかまれて、引き寄せられそうになって。
……で、蹴りだ。
しかもその後の……暴言。
「なんで、あんなふうになっちゃうかなぁ?」
なんで、蹴りなのよ?
せめて、ひっぱたくとか、なんかこう……もうちょっと女らしい拒絶の仕方ってものがあるでしょう?
それでもって、『野良犬以下』扱いって……。
あたし、昔っから、こんなだ。
『女らしいこと』なんて何一つできやしなくて。
両親をはじめとする身内からは、『素直じゃないコ』というレッテルを貼られている。
せめて学校では、それを出さないように、って今まで頑張ってきたつもりだったんだけれど。
ここへきて、その努力はもろくも崩れ去ってしまった。
だって、樋口があんなことするから…………。
……え、ちょっと待って。
樋口は……えっと、なんて言ってたんだっけ?
『あんな男のことなんか、俺が忘れさせてやるよ……っ!!』
…………………………………………。
あ……え? そ、それって、もしかして。
もしかして、もしかして、………………もしかして!?!?
やややややや、落ち着け、あたし。
樋口は、あたしの失恋現場を目撃したって言ってたんだから、きっと単純にあたしをなぐさめるつもりで言ってくれたんだ。
うん。きっとそうだ。
そう……だよね?
時間の経過と共に、少しずつ冷静さを取り戻して。
あたしは、樋口に謝らなきゃいけない、と思った。
一学期の終業式であるこの日。
既にお昼のバラエティー番組の生放送が始まってるような時間には、部活動のために残っている生徒たちも、みんなお弁当やコンビニのパンなんかで昼食をとっている。
樋口は……えっと、何部だったかな。
あたしの中の、樋口に関する記憶をゆっくりとたどっていく。
樋口とは、この学校に入学して以来、一年生のときからずっと同じクラスだった。
クラスでは、どちらかというと目立つような存在ではなく。
かといって、暗くおとなしい存在、というわけでもない。
いたって、普通。そんなイメージしかない。
……あ、そういえば、毎年6月に行われる合唱コンクールでは、いつもピアノで伴奏を弾いていた。
と、いうことは、もしかして……合唱部?
あたしは、そんな頼りない推理のもと、音楽室へと向かった。
「樋口くんは、合唱部じゃないよ、今は」
昼食を終えて練習の準備をしていた合唱部の部長(彼女も、あたしのクラスメートだ)が答えた。
「……え? 今は? ……ってことは、昔は合唱部だったの?」
「そうそう。一年のときはね。あの人、ピアノ弾けるからって顧問の先生がスカウトみたく連れてきたんだけど、二年に上がる少し前に、理由も言わずに辞めちゃった」
「そっか……そうなんだ。……あ、ねぇ、今は何部に入ってるか、知らない?」
「今? んー……何もやってなかったと思うよ。たぶん、帰宅部じゃないかな」
帰宅部……と、いうことは、当然この校内には既にいないってことか……。
「樋口くんが、どうかしたの? 委員会でもサボった?」
「あ、ううん、違うの。ちょっと借りてたもの返すの忘れちゃって……」
なんでか、とっさに嘘をついちゃった。
「あらら、これから夏休みだっていうのにね。美里ってやっぱドジだね」
「あははっ。ほんとだね。電話して謝っとく。……ありがとねっ。部活頑張ってね!」
あたしが笑って手を振ると、合唱部部長も同じく笑顔で手を振った。
あたしは、とぼとぼと家までの道のりを歩きながら、考えてた。
何を考えてたかって……樋口のことだ。
月曜日の朝に体育館で行われる朝礼では、出席番号順に並ぶからあたしはいつも樋口の後だった。
あたしの後の女子は、更にその後の女子との話に夢中だったから、あたしは樋口とよく、たわいもない雑談をしてた。
いつだったか、あたしが貧血を起こして倒れそうになったとき、たまたま振り返った樋口が気づいてくれて、あたしの身体を支えてくれたんだっけ。
それ以来、「また、おまえ倒れるかもしれねーから」って言って、樋口はあたしの後ろに並んでくれて、それは学年が上がってからも変わることなく続いてた。
二年生の秋に行った修学旅行では、これまた出席番号の関係で、あたしと樋口は同じグループだった。
四国にあるこんぴらさんの石段で、うっかり足をくじいてしまったあたしに、樋口は肩を貸してくれて、一緒に下まで降りてくれた。
その後も、修学旅行が終わるまでずっと、荷物を持ってくれたり、班長だったあたしの代わりに連絡係やってくれたり……。
いま思うと、あたし……樋口にいろいろと助けられてたんだ。