男女7人!?夏物語~アイドルHinataの恋愛事情【3】~

07 アイドル生活、スタート。

 芸能プロダクション『ハギーズ事務所』の社長の息子、萩原希によって、平凡な男子高校生の俺が静岡から東京へと連れてこられた、翌日。
 
 その日から、怒涛の毎日が始まった。
 
 いきなり、グループ結成の記者会見。
 スチール写真の撮影。
 テレビや雑誌の取材。
 
 ……などなど(っつーか、正直わけわかんねー)。
 
 記者やリポーターとの受け答えの大半は中川がしてくれて。
 時折、高橋が意味不明な発言をして。
 俺はそれにちょいちょいツッコミをいれる、という感じだった。
 
 その様子を見た人は皆、口を揃えて言った。
 
「ずいぶん、仲が良いんですね。結成以前から付き合いは長いんですか?」
「え? あ……いや……」
 
 俺が否定しようとすると、すかさず中川がさえぎって、
 
「そぉぉぉなんですよ。2年くらい前かな、ボクら意気投合しちゃって、高橋も、ちょいちょい時間見つけて、大阪から東京に遊びに来てくれたり、な?」
 
 高橋も、無言でうなずく。
 中川が、ひじで俺をつついた。
 
 ……『話を合わせろ』ってことか。
 
 もしかして、希の存在を覚られないように、ってことか?
 
「まぁ、そういうことだね」
 
 いくつかの取材を終えた後、中川が言った。
 
「静岡から拉致って……いや、連れてきた男のコを、その日のうちにいきなり新グループのリーダーに任命しちゃうような人って、どんな人ってことになるからね。樋口くんにも、変に注目が集まっちゃって、やりづらくなっちゃうし」
「俺に?」
「そうだよ。『どんな逸材なんだろう』ってね。でも、昨日、樋口くん、まったく経験ないって言ってたでしょう?」
「あ、あぁ」
「経験がないこと自体は、問題じゃないんだ。だけど、世間の期待が大きすぎて、そこに追いついてないと、その『ギャップ』はどうしたってマイナスになる」
「じゃぁ、俺はどうしたらいいんだよ?」
「別に、普段どおりにしてくれてたらいいよ。樋口くんに足りない部分は、ボクらがちゃんと埋めていくから」
 
 中川は、そう言って高橋の肩をたたいた。
 高橋も、穏やかにうなずく。
 
 ここは二人の言うこと(高橋はしゃべってねーけど)に従うしかねーな。
 
「ところで、このグループの名前なんだけどよ、誰が考えたんだ?」
「あぁ、『Hinata』のこと? もちろん、希さんだよ。ボクらの苗字の頭文字から取ったみたい」
「俺らの?」
「そう。樋口の『ひ』、中川の『な』、高橋の『た』。つなげて、『Hinata(ひなた)』」
「……安易だな」
「僕は気に入ってるけど。イメージ通りで」
 
 高橋は、いつもどおり穏やかではあるけれど、なぜかニヤニヤ笑いながら言った。
 こいつの言動は、時々よく理解できねーな。
 
「そういえば、奈々子ちゃんは?」
 
 中川が高橋に聞いた。
 
「希さんが見てくれてる。あの人もしばらく東京にいるみたいやし、Hinataのことでスタッフに指示を出すにも事務所内にいたほうが、都合がええって。あと、宿題も今のうちに済ませたいって言うてた」
「宿題? あいつちゃんとガッコーに通ってんのか?」
 
 俺の疑問に、中川が答えた。
 
「通えてはいないね。長期休暇の宿題と、定期テストだけきちんとやれば、あとは出席扱いにしてくれるんだって。私立だし、社長のハギーさんの母校でもあるしね。それくらいの融通はきくんだって」
 
 融通がきくってレベルじゃねーだろ。
 
「うちの事務所のコも、結構通ってる学校なんだ。ボクも、そこの高等部に通ってる。高橋も9月からはその学校の中等部の方に通うことになるんじゃないかな? 樋口くんは……もう3年だから、静岡の学校と相談して、なんとかうまいこと話がまとまればいいけど」
「相談?」
「デビューしてしばらくは通えないだろうから、落ち着いたら……そうだな、11月あたりに、一度静岡に帰って補習受けたりして、卒業を認めてもらうっていうのが妥当かな」
 
 そうか。ガッコーのことまで、考えてなかったな。
 
「まぁ、そのうち希さんと相談して決めればいいんじゃない? あの人なら、樋口くんに一番ベストな方法を考えてくれるよ」
 
 中川は、さわやかに笑って言った。
 
 
 
 
 
 初日のスケジュールをこなして、3人で事務所の10階に戻ると、
 
「高橋、ちょっとこのコ、どーにかなんナイ? 小学6年で洗濯の仕方も知らナイんだよ」
 
 希が眉間にしわを寄せ、奈々子ちゃんを指差して言った。
 
「信じられる? 洗濯機に固形せっけんを投入したんだよ? 固形のままだよ? 干そうと思ったら、服にせっけんがぐちゃぐちゃに着いてるんだ。結局、手作業で全部すすいで、タイヘンだったよ」
「まぁまぁまぁまぁ……。高橋がなんでもできちゃうから、やったことなかったんでしょう? 奈々子ちゃんだって、わざとじゃないんだし、洗濯くらい、すぐにできるように……って、奈々子ちゃん? なんで泣くのっ?」
 
 中川がフォローすると、奈々子ちゃんがボロボロと泣き出してしまった。
 
「希がいじめたからだろ?」
 
 俺が言うと、希は心外だとばかりに両手を広げて、
 
「ボク? イジメてナイよ。事実を言っただけだ」
「いじめてないにしても、言い方が少しキツすぎやしねぇか? 奈々子ちゃん、まだ小学生なんだぞ?」
「ボクなんて、小学1年には洗濯くらいできてたよ」
「希の方が特殊なんだろ? 俺だって小学生のときには洗濯なんてできなかったぞ?」
「もぉぉぉぉっ、やめてよ、二人とも!!」
 
 言い争いになり始めていた俺と希を、中川が制止した。
 
「二人がケンカしても、仕方ないでしょう? 奈々子ちゃんが洗濯できないのが問題だっていうなら、ボクが教えてあげるよ。それで解決でしょう?」
 
 中川はそう言うと、奈々子ちゃんの方に向き直って続けた。
 
「この一週間で、洗濯の仕方、教えてあげるからね。あと……お米の研ぎ方も。大丈夫、すぐにできるようになるよ」
 
 奈々子ちゃんは、涙を手の甲で拭いながら、真っ赤な顔でうなずいた。
 
 ……っつーか、高橋はさっきから一言も発してねーけど、どうしたんだ?
 見ると、高橋は複雑な表情で突っ立っている。
 どんな感情でいるのか、さっぱり読み取れない。
 
「高橋、どうした?」
 
 俺が声をかけると高橋は、ハッとして俺の顔を見た。
 
「……あ、いや……なんもないよ」
「そ、そうか」
 
 その割には、視線が定まってねーけど?
 
 
 
 
 
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