コンチェルト ~沙織
翌週末、やっと二人は食事をする。
日暮れの早い秋。
紀之は、南阿佐ヶ谷の改札まで、迎えにきてくれた。
改札の中、沙織を見つけて手を振る紀之。
はじめて、沙織は自分の気持ちを認める。
「何か沙織ちゃん、通勤の時と雰囲気違うね。」
沙織を、眩し気に見つめる紀之に、
「頑張り過ぎかな?」と問いかける。
“初デートだから”と言う言葉を飲み込んで。
紀之は、嬉しそうな笑顔で、優しく首を振り、
「俺も、頑張ったから。」と答える。
スーツ姿しか知らない紀之の、カジュアルな服装は新鮮だった。
沙織も笑顔で頷く。
“似合うよ”とか“可愛いよ”と言わない紀之。
明るくて、話し上手なのに。甘い言葉は苦手なのか。
何故、沙織を誘うのかも、付き合いたいとも言わない。
沙織は、確かに感じているのに。紀之の好意を。